武蔵野日和下駄

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 『キアロスクーロ ルネサンスとバロックの多色木版画(フリッツ・ルフト・コレクションの所蔵作品による)』

toumeioj32005-10-29

 最初に、国立西洋美術館木版画<キアロスクーロ>を見た。<キアロスクーロ>なる木版画がどういうものかパンフレットから引用する。

 ルネサンス美術たけなわの16世紀はじめ、版画の表現法が大きく広がった時期に、ドイツで新たな木版画の技法が発明されました。同系色の版を重ね合わせて刷ることにより、微妙な明暗や立体感を表現することに成功したのです。この技法は大きな反響を呼び、ルネサンス美術の中心地イタリアで発展しました。そして「キアロスクーロ」というイタリア語で「明暗」を意味する言葉で呼ばれるようになります。キアロスクーロ木版画はその後、フランドル(現在のベル ギーとオランダ南部)、オランダ、フランス、イギリスにも広まりました。作品はコレクターにたいへん愛好され、ほかの版画技法とは別格の高い評価を得ていました。
 本展では、版画・素描コレクションで名高いパリのクストディア財団(フリッツ・ルフト・コレクション)が所蔵する110点の作品に、アムステルダム国立美術館が所蔵する2点の作品を加えた計112点によって、キアロスクーロ木版画の流れを概観します。ブルクマイアー、ウーゴ・ダ・カルピ、ベッカフーミ、ホルツィウスら、キアロスクーロ木版画の歴史を代表する版画家たちによるきわめて珍しい作品の数々です。

 要するに多色刷りの木版画、時代が時代なので神話や聖書を巡る西洋的テーマを描いたものがほとんどを占める。茶色や灰色、緑などの同系色の明度の違う版を2枚から3枚使って、陰影を造り白抜きをハイライト部分に使い、黒を輪郭線に使うなどの技法のものが多かった。明暗による工夫をこらすことにより、遠近の表現や立体感の表現など、面白い技法が見られて楽しかった。それにしても、なんとも渋くて地味な印象を受ける作品群。
 印象に残ったのは、西洋美術における陰影がもつ重さというか、視覚表現を強く縛ってきた陰影を描くことの脅迫観念のようにみえるこだわりの強さだった。3版も版を使うのなら、なぜ、色彩の表現に向かわなかったのかという疑問、濃度についてはぼかしなどの技法を使えば、表現の幅をもっと広げられたのにと思った。