武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 再度、『北斎展』を上野に見に行く

toumeioj32005-11-04

 前回、あまりに混み合っていて落ち着いて見られなかったので、休日出勤の代休を利用して、今日、再度、上野の国立博物館に「北斎展」を見に行った。すいている事を期待して行ったのだが、今日も日曜日と同じほどの入場者数、人の列に挟まれながら頑張って見てきた。北斎の人気、作品の魅力からすると当然とは思うが、もう少し空いた状態で見たかった。
 前回は、内容に詳しく触れられなかったので、今回は、北斎展の内容に踏み込んで紹介してみよう。全生涯にわたりできるだけ多くの作品を、可能な限りいい状態で展示するとの趣旨から、作品をジャンル別ではなく、生涯の時期別に分けて展示してあるのが特徴。最初期から最晩年までを順番に見てゆける仕組み、展示に沿って順番に見てゆくと以下のようになる。
 第1期 春朗期・秀作の時代(1978年〜1794年)19歳〜33歳までのもの46点。デビュー作を含む役者絵、黄表紙の挿絵、遠近法を使った風景画、力のみなぎる相撲絵、肉筆画など。すでに多方面における創作活動が現れているのが印象的。
 第2期 宗理期・宗理様式の展開(1794年〜1804年)33歳〜43歳までのもの120点。この時期は宗理美人と呼ばれる美人画が多いが、何よりも西洋の風景画(多分銅版画)などに似せた風景画に驚いた。銅版のエッチングに近い効果をねらったもの、遠近法の技法に独特の省略を加味した切れ味鋭い風景画など、画法を広げる貪欲な取り組みに全く感心する。技法を拡大する木版画のほかに、この時期の肉筆画が沢山見られる充実した展示になっている。見ごたえあり。
 第3期 葛飾北斎期・絵本挿絵への傾注(1804年〜1818年)43歳〜58歳までのもの50点。この時期は馬琴の読本ににつけた挿絵が凄い、私達がよく知る絵物語の世界の幻想性が、既に完成度高く木版画として成立している。見開き2ページを駆使して展開される読み本の世界に、当時の人々は夢中にならなかったはずはない。力強い肉筆画に中国の絵の様式を学んでいる様子がうかがえる。和洋中が渾然となった北斎の世界がこうして出来上がっていたということがよく分かる。飽くなき探求心、驚異的なまでに旺盛な創作意欲、こうゆうタイプの表現者を歴史上に何人か知っているが、北斎もその一人。
 第4期 戴斗期・多彩な絵手本の時代(1818年〜1820年)58歳〜60歳までの31点。この時期はなんと言っても15編におよぶ北斎漫画、絵手本の時代、それと各種の絵地図。今で言うイラスト集、大人気だったと言うことは北斎の絵を学ぼうとする人々に、このような形で答えたのだろう。多様を極めたイラストの驚くべき展開、絵地図もまたすばらしい。肉筆の絵にも迫力がある。
 第5期 為一期・錦絵の時代1820年〜1844年)61歳〜84歳までの187点。よく知られている富嶽三十六景など錦絵版画の頂点を極めるのがなんと70歳を過ぎてから、大胆な構図の斬新な風景画の世界が、この時代に次々と描かれていったことは、この時代としては驚異、普通なら50歳程度が隠居生活の始まりという江戸時代、北斎の尽きせぬエネルギーには感嘆のほかない。完全に時代の枠組みを突破している。このように生きるということはさぞ過酷なことに違いない。
 第6期 画狂老人卍期・最晩年1840年〜1849年)80歳から90歳までの54点。浮世絵版画は減り、肉筆の完成度の高い力作の連続、90歳の時に描いた富士を配した画面から天に昇ってゆく竜の姿が印象的。右上の画像も90歳の頃の肉筆画の一枚。北斎はとんでもなくエネルギーに満ちた生涯を送った人だった。
 全貌を把握するのがとても困難な人、これからも機会を見つけて鑑賞を続けて生きたい。今回の北斎展は北斎を知るうえで非常に参考になった。沢山の人にお薦めしたい。