武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 マキシムのソロリサイタル印象記

toumeioj32005-11-27

 マキシムは1975年クロアチア生まれのピアニスト、と言うことは1991年の旧ユーゴスラビアからの独立と90年代前半のセルビア人との戦争など、国家と民族が激動する紛争の日々を、多感な20代に過ごしたことになる。プログラムの解説によれば、戦火の中、地下室でピアノの練習をする日々もあり、現代版戦場のピアニストと言われることもあると言う。芸術作品としての音楽表現は、民族や国家の問題は関係ないと思うが、どんな演奏をするのか興味がわいてくるのは止めようがない。さっそく所沢市市民文化センター、ミューズアークホールへ聴きに行ってきた。
 開演とともに足音も高くステージに登場してきた姿は、長身でやせ気味の青年、すらりとして漆黒の髪の毛が印象的、この日は長袖の黒シャツに黒のズボン、身体にぴったりとしていて、筋肉質の鍛えられた体の線がくっきり、颯爽とした若者と言った感じ、緊張気味なのか最初は厳しい表情、目の光が強い。いすに座るとすぐ演奏が始まった。
 前半のプログラム、ショパン以外は聴いたことのない曲、弱音で奏でるところが透明感があり、鍵盤のタッチがやさしくとても純度の高い美しさを感じる一方、左手を使い強く和音を響かせるところは力強く、強靭で技巧十分な演奏、若いうちはこうありたいと考える颯爽とした演奏だった。胸のすくようなスピード感があり小気味よい。ピアノが打楽器としての性能を見事に発揮していて気持ちよかった。今日の演奏プログラムを引用しておこう。

ショパン:ノクターン&マズル力

②バリー:ある日どこかで〜映画「ある日どこかで」より

ルーニーチ:ガレプ・イ・ヤ

④ヨシポーヴィッチ:ゲーム・オブ・グラス・ビーズ

⑤ケンフ:ザヴューコリック

休憩

ムソルグスキー:展覧会の絵より

 さて後半は、「展覧会の絵」、最近売り出し中の若手ピアニストのリサイタルでは、必ずと言っていいほどこの曲をプログラムに加える。ピアノでソロ演奏するには、難曲なのかもしれないが、最後のキエフの大きな門に向けて、それぞれの楽章の特徴を描き分けながら鮮やかに弾いていったところ、素晴らしい腕前と言うべきだろう。感心した。若さいっぱいの颯爽とした印象が残るリサイタルだった。