武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 就学援助を受ける児童の増加について(画像は暮れに竹富島でみた見事な木彫、本文と関係ありません。)

toumeioj32006-01-03

 今朝の朝日新聞の1面のトップ記事をみて、新しい年の初めにも関わらず、暗い気持ちになってしまった。事件や事故は、どんなに悲惨なものであれ一過的、当事者を含む周辺の関係者が総力を挙げて取り組み修復してゆけば何とかなること、今朝の記事は、じわりと社会を蝕み始めた社会の底辺に広がる貧困の問題だけに、根が深い。
 紙面を飾る見出しが凄い、「学用品や給食費 就学援助4年で4割増 東京・大阪4人に1人」。04年度までのデータを基にした記事だが、04年度では、就学援助率は大阪が27.9%、東京が24.8%、山口が23.2%、北海道が19.3%、全国平均が12.8%、単純に考えて経済的な理由で就学に支障のある子ども達がこれだけいるということ。大都市の底辺に広がる貧困の影と言ったらいいか、これは氷山の一角。
 現場の先生達から聞いて、大変な家庭の子ども達が増えていると言う話は耳にしていたが、具体的な数字で示されると胸がつぶれる思いがする。若手の社会学者の報告でも、最近、この国の社会層が二極分解する傾向にあるという報告が出ていたが、はっきり数字で示されるとやっぱりショック。フリーターやニートと呼ばれ、長期的には貧困に向かわざるを得ない若年層のことが社会問題として話題となってきたが、それだけではなかった。
 人の一生は、生まれて死ぬまでの長いサイクルの繰り返しともいえるが、ひとり立ちするまでの親元で暮らす20年近い期間が、その後のその人の一生を大きく左右する。貧しさを知らない人には分からないかもしれないが、自分の親が貧しいと言うことは、子どもの成長に重いリスクとなって圧し掛かる。簡単に修復できない社会的な事象であるだけに事態は厳しい。
 はっきり言って食べるもの着る物に事欠くほどではなくても、貧しいことはつらい。子どもの世界では、お互いの親に対するチェックの眼は、大人が知る以上に厳しい。学校ではあらゆる機会を通して公平・平等の理念が語られるのに、玩具に現れる明白な持っている者とそうでない者の差別、背後にある養育環境としての親の教養の差別、しつけの欠如から来る性格の良し悪し、数え上げればきりがない。この国のあまりにも同調的な学校社会において、普通以下であることの身にしみる疎外感。みんなが貧しければ貧しさは連帯感となり、力にすらなる。だが自分だけが貧しいということは、強烈な孤立となり、身と心を蝕む。
 社会の歪みは、確実に次世代をになう子ども達の心を押しつぶす。子ども達が、みんなハングリー精神をもって強く立ち上がれるわけではない。この国のいたるところで発生している貧困の問題に、一日も早く政治的に取り組まないと社会は深い病根を長い間抱え込むことになる。警告の意味で大事な記事だった。だが、朝日ともあろうものが、こんな大事な話、この程度で終わらせてはいけない。徹底的に掘り下げて、最近のこの国の底辺で膨らみ始めた貧困問題を紙面いっぱいにぶちまけて欲しい。それでこそ朝日というもの、できるかな?
 追加(調べてみたら05年12月23日の某政党機関紙赤旗のニュースがソースのよう、以下に赤旗のサイトから引用する。)

急増する就学援助
 「東京の東部地域ではこの五年間で全区が30%を超えた」。十日、東京都内で開催された「教育財政シンポジウム」(同実行委員会主催)で、学校事務職員が衝撃的な報告をしました。
 「30%」というのは、教育扶助(生活保護世帯が対象)や就学援助(生活保護に準じる所得水準の世帯が対象)を受ける公立小中学校の児童生徒数の割合です。
 就学援助は、学用品費や入学準備金、給食費などを支給する制度です。多くは生活保護基準の1.1―1.3倍の所得水準の世帯が対象。三人に一人の児童生徒が生活保護基準ぎりぎりの生活環境に置かれています。
 東京では特別区二十三区のうち九区が30%超。足立区の42・00%を最高に墨田区36・90%、板橋区36・55%が続きます。
 足立区では教育扶助や就学援助を受ける児童生徒の割合が一九九八年には20%台半ばでしたが、二〇〇〇年には30%台になり〇三年には40%台と急増。中学校の就学援助対象生徒数が当初見込みより百七十二人増え、〇五年度補正予算に千五百万円を計上しました。
 足立区の男性中学教諭は「クラス三十八人のうち半数を超える生徒が受けています。就学援助の対象でない生徒にも給食費の滞納が増え、困窮世帯の増加はここ五、六年顕著です」と話します。
 金融広報中央委員会(事務局・日本銀行内)が十一月に発表した「家計の金融資産に関する世論調査」によると、「貯蓄を保有していない」二人以上世帯が前年より0・7ポイント増の22・8%と、記録が残る六三年以来で最高になりました。一方では貯蓄を増やしている世帯もあり、格差拡大が浮き彫りになっています。
 昨年から調査対象に加えた単身世帯の無貯蓄比率は41・1%(前年比6ポイント増)と五割に近づき、これを加えた全体での無貯蓄比率は23・8%(同0・9ポイント増)です。
 国際比較でみても、それは顕著です。OECD経済協力開発機構)の比較調査では、日本の貧困率(全国民の平均所得の50%以下の所得階層世帯の人口比率)は、15・3%に達しています。十年ほど前8%台だったのが、約二倍に増加しています。調査した加盟二十五カ国のなかで第五位、OECD諸国の平均10・2%を大きく上回っています。“貧困ライン”は、年間所得二百五十八万円未満に相当します。
 生活保護受給者も十年前は六十万世帯だったのが、現在は百万世帯を突破しています。

 小学生三人を抱え、就学援助を受けている東京・板橋区の女性(43)はパートで家計を支えています。「ぎりぎりの生活です。おとなになるまで無事育てられるかどうか本当に不安。安心して暮らせる生活がほしい」

 追加2 amazon格差社会に関係する書籍を検索してびっくり、最近は、類似のテーマでこんなに沢山の本が出ていたとは、今やこの国の貧困問題は社会を見る眼の共通テーマになっている様子、見つかっただけ引用してみる。

1.『希望望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』 山田 昌弘 (著)
2.『しのびよるネオ階級社会―“イギリス化”する日本の格差』 林 信吾 (著)
3.『格差社会をこえて』 暉峻 淑子 (著)
4.『階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』苅谷 剛彦 (著)
5.『かまやつ女」の時代―女性格差社会の到来』 三浦 展 (著)
6.『下流社会 新たな階層集団の出現』 三浦 展 (著)
7.『日本の所得格差と社会階層』 樋口 美雄 (著), その他
8.『少子高齢社会のみえない格差―ジェンダー・世代・階層のゆくえ』 白波瀬 佐和子 (著)
9.『不平等社会日本―さよなら総中流』 佐藤 俊樹 (著)
10.『00年代の格差ゲーム』 佐藤 俊樹 (著)
11.『レイバー・デバイド(中流崩壊)―労働市場の二極分化がもたらす格差』 高山 与志子 (著)
12.『機会と結果の不平等―世代間移動と所得・資産格差』 鹿又 伸夫 (著)
13.『カネ持ちの陰謀「年収格差100倍時代」のいきかた』 「基礎の基礎」 森永 卓郎 (著)
14.『日本の経済格差―所得と資産から考える』 橘木 俊詔 (著)
15.『現代女性の労働・結婚・子育て―少子化時代の女性活用政策』 橘木 俊詔 (著)
16.『封印される不平等 』 橘木 俊詔 (著), その他
17.『日本の不平等』大竹 文雄 (著)
18.『機会不平等』 斎藤 貴男 (著)
19.『論争・中流崩壊』 「中央公論」編集部 (編集)
20.『見えざる階層的不平等』 鍋島 祥郎 (著)
21.『社会階層―豊かさの中の不平等』 原 純輔 (著), 盛山 和夫 (著)