武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『読むだけで絶対やめられる禁煙セラピー』アレン・カー著,坂本章子訳(ムックセレクト)

toumeioj32006-01-04

 アマゾンで禁煙本を検索するといつもトップに出てくるのと、可なりの確率で禁煙に成功するらしいと言う評判から、久しぶりに禁煙本を手に取った。私もかつては一日二箱以上もハイライトというタバコを吸っていたチェインスモーカーだった。禁煙して15年以上になるので、禁煙に関わる話題からすっかり遠退いてしまい、久しぶりの禁煙話題で楽しませてもらった。
 ①非常に読みやすく書かれていて、すいすい読めるところがいい。喫煙の害について、健康被害について、あっけないほどわずかしか触れられていない。まるで肩すかしをくらったような感じすら受けた。禁煙をすすめる本の中で、これはこの本のユニークな点だろう。
 ②この本では、喫煙習慣をはっきりと<麻薬中毒>と規定している。薬物依存症という言葉も何度か出てくるが、一番繰り返されるのはこの<麻薬中毒>という言葉。この大胆さにはびっくりした。麻薬には、はっきりした定義があり、現在のところこの国ではタバコは法的に麻薬及び向精神薬取締法の対象になっていない。よくJTあたりから文句が来なかったと驚いた。勿論、薬物依存を引き起こし、喫煙者ばかりでなく周囲の受動喫煙者までも健康被害をもたらすタバコは、今現在の時点で新商品として市場に登場したら、間違いなく麻薬扱いになると思うが、大胆に喫煙者を<麻薬中毒患者>と決め付けるている勇気に感心した。
 ③禁煙による禁断症状を、つとめて明るく楽しく描こうとしているところもユニーク。タバコは、身につけて持ち歩くものだけに、喫煙者の生活の隅々にまで浸透していて、生活のリズムを刻んでおり、正直言ってヘビースモーカーにとっての禁煙は、人生の大転換を引き起こす。そこを努めて明るく楽しげに演出しようとしているところがいい。カウンセリングマインドを背景にもった叙述になっている。
 ④禁煙をはっきりした人生ドラマに仕立てたところもいい。キーワードは、第40章の「さあ、最後の1本を吸おう」この章が、この本のクライマックス、総ての叙述は、この1点に集約されている。確かに、生まれながらに喫煙者としてこの世に生まれてくる人はいない。人は喫煙者になるのだ。だから、喫煙者の誰もが憶えていると思うが、トキドキしながら吸った<悔やんでも悔やみきれない人生での最初の1本>が、あったはず。そして、憶えてはいない無数の喫煙行為があって、いつかは<最後の1本>が必ずやって来ることになる。強制されようが、自分で決意しようが、なんらかのきっかけで<最後の1本>がやってきて、それ以降は喫煙をしなくなる。あるいは喫煙ができなくなる。この本は、この<最後の1本>を人生の儀式にまで高めたところが何より素晴らしい。本書の特徴を一番発揮しているページなので本文を引用してみよう。

 [40]さあ、最後の一本を吸おう
 いよいよ最後の一本を吸うときです。その前に基本的な点を二つだけ確認してください。
 ①成功すると確信が持てますか?
 ②気持ちを正しく持っていますか? 憂欝や悲壮感を感じていませんか? 素晴らしい収穫を得ることにわくわくしていますか?
 少しでも疑いのある人はもう一度この本を読み直してください。
 準備ができたと思う人は最後の一本を吸いましょう。ただし、一人で吸うこと。無意識に吸わないこと。一服一服に集中すること。味と臭いに集中すること。発癌性の煙が肺に入っていく感じに集中すること。毒素が血管に詰まる感じに集中すること。ニコチンが体中にいきわたる感しに集中すること。その一本を消すときに、もう二度とこんな感覚を味わわなくてすむことの素晴らしさを感じること。奴隷生活から解放される喜びを味わうこと。それはまるで真っ暗闇から日光のさんさんと降り注ぐ世界に抜け出したようではありませんか?

 禁煙の本なのに、最後の1本を吸いましょう、というのがいいですね。いつかはやってくる最後の1本を何時にするか、なんだかワクワクしませんか。私もこうゆう風にドラマチックに最後の1本を吸ってみたかった(笑)。私の最後の1本は、今から15年ほど前、朝ごはんを食べ終わり、一服やりながら朝のテレビのニュースを見ていたら、アナウンスで「喫煙は薬物依存症」という内容のことを言っているのを聞き、なぜか<依存症>と言う言葉にカチンときてそれ以来1本も吸わなくなった。だから、最後の1本は、朝のニュースを見ながら何気なく吸ったハイライトだった。