武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

『やっぱり変だよ日本の営業 競争力回復への提案』宋文洲著(発行日経BP企画)

toumeioj32006-02-12

 企業経営や販売促進のノウハウをテーマにした本の中に、時折、素晴らしく面白い本が見つかることがある。大人が懸命に生きている現場で鍛えられたものの見方が、いわく言いがたい説得力と迫力を生むのかもしれない。本書もそんな本のひとつ、この国の営業と呼ばれている活動の奇妙さを、実例をあげて鋭く指摘しているところがまず面白い。
 著者は63年中国生まれで、85年に国費留学生としてこの国に来て、天安門事件などで帰国を断念、以後、この国に留まり、92年にソフトブレーンを設立、同社の経営してきたのだという。このような生い立ちと、この国における20年の活動から見えて来たことを、エピソードをつなぎながら非常に分かりやすく書き進めている。
 この本の表紙の折り返しに「トップセールスになりたい人はこの本を読まないでください。なぜならば、この本は組織で売るための本だからです。」とある。このフレーズが、最もよくこの本の内容を要約している。営業マンを理不尽な人権無視の境遇に追いやることが営業だと思っているこの国の多くの企業経営者に、ぜひこの本を読んでもらいたいと思った。営業マンを競争させ、個人の気力と能力にオンブするようなこの国の営業の可笑しさを、もっとあばきたててもらいたいと思った。キーワードは、組織で売るとはどうゆう事か、というその一点にある。
 要約すると、この本は営業活動をいかに組織的に効率よく展開するかという「営業組織論」の本。第4章が最も具体的だが、同時に著者の会社の製品の強力な販売促進になっているところが面白い。著者も、これからは製品の宣伝になるので、お嫌なら飛ばして読んでくださいと断っているが、この章が一番具体的で面白いので飛ばしてしまうとこの本の価値は半減してしまう。
 内容を知るには、目次を見るといいので引用する。

第1章 やっぱり変だよ、日本の営業マンの姿
第2章 営業のたくさんの「なぜ」
第3章 真実に目を向けよう
第4章 効率的な営業を実現するために
第5章 常識や習慣にとらわれないために

 この本を一介の営業マンが読むとどうなるだろう。上司や会社の経営陣の悪口を、より論理的に、より説得力をもって、展開できるようになるかもしれない。大人が批判の武器を手に入れるということは、とても大切なこと、その意味で、私は、現場の営業マンにこそこの本を薦めたいと思う。