武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『ベストセラー小説の書き方』ディーン・R・クーンツ著 大出健訳 朝日文庫

toumeioj32006-05-28

 一言で言えば、これは表紙裏の宣伝コピーにもあるように、エンターテーメントとなるように計算されて書かれた娯楽読み物としてのハウツー物、題の通りのベストセラー小説の書き方。しかも、ベストセラーの目標設定が半端ではない。なんと100万部を越えるミリオンセラーを書くにはどうすればいいかという内容。
 さすがにプラグマチズムを生んだ国の売れっ子作家だけあって、ひたすらに具体的に売れる物語の書き方について展開していく。まるでミステリーの手法で書かれた「ベトセラー」という事件の謎を解いてゆく探偵の捜索活動のような感じ、私は、何気なく手にとって読み始めたら止められなくなった。素晴らしい筆力でぐいぐい引っ張ってくれるので、内容の紹介を兼ねて、目次を引用する。

第一章 本書はなぜ書かれたか
第二章 偉大な名作を書く
第三章 移りかわる出版市場
第四章 ストーリー・ラインを組み立てる
第五章 アクション、アクション、アクション
第六章 ヒーローとヒロイン
第七章 信憑性のある登場人物をつくりだす
第八章 登場人物にいかにもありえそうな動機を与える
第九章 背景描写
第十章 文体について
第十一章 SFとミステリー
第十二章 避けるべき落とし穴
第十三章 書いたものをどう売るか
第十四章 読んで読んで読みまくれ

 もちろんこの本を読んだからといって、誰もがミリオンセラーを書けるとは思えないが、少なくとも売れない本を書いている人のどこが売れない原因になるか、ということぐらいは、ある程度わかるようになる。ミリオンセラーだけが読みたい本ではないので、この本のすべてを鵜呑みにするつもりはないが、部数を売るプロ作家の凄さがぴりぴり伝わってきて楽しい読書体験となった。
 また、良く売れていてべらぼうに面白い本を分析する時に、分析の視点になるようなヒントも沢山教えられた気がする。
 この国にも本の書き方や文章読本の類は沢山あるが、クーンツのこの本ほど徹底したものは読んだことがなかった。娯楽小説の読み方ガイドとしても好著なので、本好きには是非お薦めしたい。