武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 労働市場の歪み=プールの児童水死事故にかかわって

toumeioj32006-08-01

 昨日、埼玉県ふじみ野市の市営プールで、流れるプールの吸水口に小学2年生が吸い込まれ、死亡するという痛ましい事故が発生した。吸水口の蓋が何らかの原因で外れ、そこに当該児童が吸い込まれてしまったもの。
 今日になって、事故発生の原因を報道各社は、様々な角度から検証、事故原因の追究と再発防止のためのニュースを流している。原因は、疑う余地がない。吸水口の蓋が外れたまま営業していたこと、蓋の取り付けが不完全だったこと、蓋に対する危機感が欠落していたこと、これに尽きる。
 だが、背後に見え隠れする問題点は、意外に深く広い。当該プールの所有は、ふじみ野市だが管理は管理会社に委託されており、現場の管理はさらに下請け会社に現場管理を丸投げしていたと思われること。十分な経験と知識を持たない者に、安易に行政の仕事が外部委託されてしまう最近の風潮に、私は非常に危険なものを感じている。
 おそらくプールを管理する担当者は、何らかの理由でこのプールに不慣れだったに違いない。今年の本格的な夏はまだ始まったばかり、これから経験をつんで慣れてゆくところだったのではないか。人命を預かるプールの施設には、施設そのものを熟知した管理者が絶対必要なのだ。
 行政改革の掛け声の下に、ここ10年来、行政の現業部門が次々と外部に委託されるようになってきた。地方によっては行政サービスの3分の2の部門は、外部委託が可能だという。住民サービスに直結する現場の人間が、人材派遣会社の派遣社員に交代している現状を、非常に苦々しく思ってきた。
 あらゆる現場労働には、その現場特有の経験の蓄積による熟練労働が必要。どんなにマニュアルを作ってみても、マニュアルに取り込みきれない現場の微妙なニュアンスがある。例え完璧に近いマニュアルを作っても、多くの人はマニュアルを読むのが苦手、誰だって100%マニュアルを読み込むことは難しい。長年の経験と熟練に頼らなければうまくいかないのが現場に携わる人間の実情。労働における熟練の意味を軽視する最近の傾向に非常に危ないものを感じる。じっくりと現場でたたき上げた熟練労働の掛替えのない価値を再評価する必要がある思う。
 これらの条件を無視して進行している、現業労働の外部委託化、派遣依存の労務管理戦略は、今後、各方面で今回のような致命的な事故を防げないに違いない。
 プール管理を任された若者たちの責任を過剰に追及することだけはやめて欲しい。背後に潜む、行政改革の名の下に進行した行政の管理システムの陥穽に目を向けて欲しい。