武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 《著作権延長問題》

 著作権の保護期間を20年延長するかしないかが検討課題として浮上してきている。6月2日の朝日新聞日曜版のbeで特集していたので、この話題にのってみよう。まず著作物とは何かということがあるので、著作権法第十条を引用しておこう。(画像は、アルベロベッロの野原で見かけたアマポーラ雛罌粟の群落、植物の種も最近ではハイブリッドになり著作物に近くなってきた)

第十条 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
  一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
  二 音楽の著作物
  三 舞踊又は無言劇の著作物
  四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
  五 建築の著作物
  六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
  七 映画の著作物
  八 写真の著作物
  九 プログラムの著作物
2 事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。
3 第一項第九号に掲げる著作物に対するこの法律による保護は、その著作物を作成するために用いるプログラム言語、規約及び解法に及ばない。この場合において、これらの用語の意義は、次の各号に定めるところによる。
  一 プログラム言語 プログラムを表現する手段としての文字その他の記号及びその体系をいう。
  二 規約 特定のプログラムにおける前号のプログラム言語の用法についての特別の約束をいう。
  三 解法 プログラムにおける電子計算機に対する指令の組合せの方法をいう。

 ご覧のように、人が創作するもののほとんどが著作物にあたるといっていいだろう。子ども達の落書きから書きとめられた主婦の鼻歌まで、著作物と意識された瞬間から、それは著作物となり、その使用は、著作者固有の権利を主張することになる仕掛けだ。
 権利の内容を詳しく調べると、面倒なことになるので、興味のある人は自分で調べてもらうことにして、問題になっている保護期間がどうなっているか、見てみよう。

第五十一条 著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。
2 著作権は、この節に別段の定めがある場合を除き、著作者の死後(共同著作物にあつては、最終に死亡した著作者の死後。次条第一項において同じ。)五十年を経過するまでの間、存続する。

 現行法では、死後50年となっている。これを70年に延長するかどうかが問題になっているのだ。この20年の違いは、何を意味するのだろう。
誰でも思いつくことだが、一番大きいのは、その著作物を販売して利益をあげられる、関係者の利権が20年延長されることだろう。多くの著作権は、○○著作権協会や会社に委託されているので、直接的には、遺族というよりもいくつかの営利団体の利益になる場合が多いような気がする。
20年延長がもたらす著作者側の利益がどれほどで、それが20年延長してまで保護されるべきか、しっかり議論する必要があるだろう。
 朝日新聞の記事では、本に関するデータだったが、著者の没後から急激に出版点数が減り、50年経過するとわずか1.6〜2.6%にまで激減してしまうそうだ。70年後の予測は0.7〜1.0%。当然のことながら、死んでしまったらほとんどの著作は、誰からも見向きもされなくなってしまうのだ。新しいものが洪水のように登場してくるなかで、死者の作品が何時までも頑張っていたら、次々と登場してくる新人を圧迫してしまいかねない。消えるべくして消えてゆくと受け止めるべきだろう。
朝日新聞は、著作権延長から生ずる価値ある作品の<死蔵>問題を取り上げていた。価値があるかないかを決めるのは誰か、それが問題だが、資本主義的に利益を生む作品に価値があるとするしかないだろう。ゼロではないが、僅かな価値しかなくて商品化するにはリスクが大きすぎる作品は、この<死蔵>対象に含まれるかもしれないが、私の経験では、爆発的なネット市場をさがすと、大抵のものは古書として、入手可能なような気がする。青空文庫の存在はすばらしいが、それだけとは限らない。
一部の著作物の関係者の利害が、この延長問題に強く関係すると思うが、その辺りの主張は当然、声が大きくなることだろう。何の利害もない多くの一般大衆のとっては、20年の違いはほとんど意味がないので、無関心で推移するに違いない。
時代の変化があまりにも早いので、今後は50年後の価値、70年後の価値を見極めるのが、さらに難しくなるだろう。私の経験では、50年前の著作物となると、まるで古典、ほとんどのものは振り返って見る気がせず、偏愛するものは数回の転居でも捨てずに大事にとってあるもののみ。一読者の立場では、20年の違いはほとんど無いに等しい。関係者の主張を見極めるしかないだろうという気がする。
 この20年の違いがどのような議論になるのか、今後を注目して見守っていきたい。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/021/07040204.htm
文部科学省著作権分科会のこの問題の小委員会の第1回審議内容がここにアップされているので、興味のある人は覗いてみるといい。