武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 学力テスト不正発覚に思うこと

 共同通信が7月7日に配信したニュースが震源となって、教育の世界に大きな地震を引き起こした。すんなりと全国学力テストが実施に移され、教育に競争原理を導入するなど、なりふりかまわぬ学力向上ブームは、ついに予想通りの不正問題を引き寄せてしまった。事の始まりは、共同通信の次のニュースからだった。そっくり引用させていただく。この第1投めは見事なストライクとなって決まった。記事も簡潔、一読、背後にきちんとした裏付けがあることうかがわれ、名文というほかない。一部の隙もない達意の文章見本だ。

足立区の学力テストで不正 教員「校長の指示」と証言/2007年7月7日(土)18:28
 昨年4月に実施された東京都足立区の学力テストの際、区西部にある公立小で、試験中に教員が児童の答案を指さして誤答に気付かせる不正を行っていたことが7日、分かった。6人の教員が「校長の指示があった」などと証言した。足立区はテストの順位を公表しているほか、学校予算の傾斜配分や学校選択制を取り入れており、教育関係者からは「競争原理の導入が不正の背景にあるのではないか」との指摘も。

 ことの始まりは、おそらく内部告発ではないだろうか。ミートホープ事件でもそうだったが、閉ざされた機密性の高い組織の浄化には、内部告発は実に有効、いや、これ以外に不正を正す方法がないような気がする。
 翌日には、1日遅れて各紙が一斉に朝刊で足立区の学力テスト不正発覚を記事にして流した。こうなるとどこも同じような内容になるが、東京新聞の記事が詳しいので全文引用してみよう。

校長主導学力テスト不正 足立区の公立小 昨年の試験、誤答指さす(2007年7月8日 朝刊)
 昨年四月に実施された東京都足立区の学力テストの際、区西部にある公立小で、試験中に教員が児童の答案を指さして誤答に気付かせる不正を行っていたことが七日、分かった。共同通信の取材に対し、六人の教員が「校長の指示があった。校長自身も教室に来て、自ら率先して『指さし』をした」などと証言した。
 校長は「日常の指導の一環でノートや小テストを指さすことはあるが、学力テストではやっていない」と否定。区教育委員会は「テストは適正に行われたと考えている」とする一方、事実関係を把握するため、調査を始めた。
 足立区はテストの順位を公表しているほか、学校予算の傾斜配分や学校選択制を取り入れており、教育関係者からは「競争原理の導入が不正の背景にあるのではないか」との指摘も出ている。
 同小は区内七十二小学校中、二〇〇五年は四十四位だったが、不正のあった〇六年は一気に一位になっている。
 テストは昨年四月二十五日、小学校では区内の二年生から六年生を対象に国語と算数で実施された。同小の複数の教員は試験中に机の間を歩き、答案に間違いがあると、問題を指さして児童に気付かせた。
 教員らによると、校長も教室の中に入り、自ら指をさした。教室内で教員に「指さし」を促すような態度を取ることもあったとしている。
 教員の一人は「指をさして意味の分かる児童とそうでない児童がおり、不正ぎりぎりだと思った。校長の指示があったかどうかと言えばイエスだ」と証言。教員らは「校長は学校の平均点を上げるのが目的だったのだろうが、あんなやり方で一位になっても子どもは喜ばない」と話している。
 また、校長は、本来すべてをそのまま回収しなければならないのに、〇五年のテストの問題をほとんどメモし、翌年の児童に練習問題として繰り返しやらせていた。
 翌〇六年のテストは、九割以上が〇五年と同一問題だった。
 校長は「(〇五年の問題が)良かったので参考にした。翌年も同じ問題が出るとは思わなかった」とする一方、「過去問をやらなければ一位にはならなかったと思う」とも話している。
 区教委は「メモを取ったのは不適切な行為」としている。
勇気ある不正証言
 教育評論家の尾木直樹法政大教授(臨床教育学)の話 学力テストをやれば必ず指さしなどの不正が起きる。答えを丸暗記するほど過去問を繰り返しやらせ、通常の授業時間が削られるような状況も生まれるなど、学力テストを行うことでかえって基礎学力が落ちてしまう。不正を証言した教員はとても勇気がある。子どもに対する本当の愛情が感じられ、生き方そのものが教育者としての姿勢を示している。管理が強まる学校の中で、不正があっても声を出せない教員は少なくない。全国では同じような問題がたくさんあるはずだから、後に続く人が多く出てきてほしい。

 過去問を校長のメモをもとにして作ったという話が、いかにも作り事めいて悲しい。コピーを規制されてのことだろうが、誰かがコピーしないはずがない。足立区以外の現場でも過去問が使われていることは、学校に詳しい人なら良く知られている、いまさらメモだなんて、そんなに校長の職務は暇なのかと、ついオチョクリたくなる。学校のコピー機はいつもフル回転している。
 ほとんどの問題が2年目も同じだったと言うのもオカシイ。学年が進行するので、生徒が変って同じ問題にならず、比較するのに都合がいいと考えたのかもしれないが、足立区教委のやり方が間違っている。テストで計量できる学力なんて、過去問で相当向上するのは進学指導の常識、都の学力テストの上位地域は進学塾の先進地域と一致していることも関係者の間ではよく知られていること。子どもの学力差が背後にある何を反映しているか、もう少し教育関係者は慎重に良識をもって行動してもらいたいものだ。
 その後の続報が、予想通りなのが悲しい。不正は当初から予想されていたことなので、調査は、即座に全国規模で実施するべき。高校野球の特待生問題と似たようなもの、足立区だけの問題にしておくのは勿体ない、不正は、何の罪の意識もなく全国に広がっていないはずはない。東京新聞の続報を、続けて全文引用する。

不正行為校長認める 足立区教委調査公表 小中4校でも発覚(2007年7月17日 朝刊)
 東京都足立区が昨年四月に実施した学力テストをめぐり、区立小学校の一校で教諭が誤答を指さしして児童に気づかせる不正行為があったと指摘された問題で、同区教育委員会(斉藤幸枝教育長)は十六日、記者会見。当初不正を否定したこの小学校の校長が、指さしや、禁止されている前年度の問題を使った練習の実施などをしていたことを認めた、とする調査結果を公表した。
 また、この学校以外にも、区立の小中学校計四校で、前年度の問題をテスト直前に解かせる不正が行われていたことも判明。斉藤教育長は「管理不行き届きだった」と謝罪し、今後、第三者を交えた検討委員会を設け、テスト結果の公表方法のあり方などを検討する方針を示した。
 区教委は最初に問題が指摘された小学校に当時勤務していた全教員から聞き取り調査を実施。この結果、校長と教諭五人が、テスト中に解答を誤っている児童に対し、問題文を指さすなどして気付かせる不正をしていたことが分かった。また、校長は翌年度も同じ傾向の問題が出ることを認識しながら、二〇〇五年度のテスト後に問題文をコピーし、昨年四月のテスト直前に解く練習をさせていたことも確認した。
 区教委はこれらの不正について「管理職からの指示があって行われた」と述べ、学校ぐるみで不正が行われていたとの認識を示した。
 さらに同校以外の区内全小中学校計百八校に対しても、テスト前の学習状況などを調査。二小学校と一中学校の一学年で、試験直前の四月中に一度、前年の問題を解かせていたほか、別の小学校一校では二−六年生に二−五回、練習させていたことが分かった。
 区教委は、今回の問題の背景に「点数だけが独り歩きしたきらいがあった」としている。
『学校競争』に警鐘
 足立区は学校ごとの学力テストの成績公表や予算配分への反映の検討など、テスト結果で学校を競わせる施策を強力に推し進めてきた。区内の学校現場で生じたゆがみは“学力テストによる学力向上策”の是非を問う議論に一石を投じている。
 一九五六年度に始まった国の学力テストは、地域間の競争激化を招き、成績の悪い子を休ませるなどの過剰反応が起きたとして六六年度を最後に中止された。しかし九〇年代後半から学力低下批判がわき上がったことを背景に、独自に学力テストを実施する地方自治体が増加。国の学力テストも今年、復活した。
 都教委は二〇〇三年度から都の学力テストについて区市町村ごとの平均正答率を公表。足立区教委の斉藤幸枝教育長は「足立区は学力がかなり低い。社会に出ていくには最低限の学力は必要」とこの日も危機感を強調した。しかし学校を競わせることでの学力向上策は結果として区教委が禁止していたテスト問題のコピーなどのルール違反に学校を追い込んだ。国の学力テストの反省は生きなかった格好だ。
 帝京大学の市川博教授(教育学)は「学校選択が学力評価中心で行われているという実態がある限り、今回のような問題が出てくる。そもそも業者にテストを委託している現状で、学力向上の目的が達成できるのか。先生が採点して課題を把握しないと意味がないと思う」と話している。(早川由紀美、小林由比)

 最終的にこの問題がどの辺りに着地するか、しばらくは様子を見守りたい。ネットのニュース検索機能は本当にありがたい。