武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『ブロークン・トレイル 遥かなる旅路』 ウォルター・ヒル監督(WAWAWまたはDVD)

 壮大なウエスタン・ロードムービー、と言う宣伝文句に引かれて、チャンネルを合わせたら、余りにも素晴らしい北米の山野の自然描写に引かれて約3時間、たっぷりとした情感豊かな汗臭いドラマですっかり楽しませてもらった。

 オレゴン州からワイオミング州まで長距離を、500頭余りの馬を率いて、牧場購入の資金稼ぎの長旅に出る老いたベテランカウボーイのリッターと甥のトムの何とも誇り高い生き方が、雄大な荒野を背景に、荒々しく繊細に描かれて見事。
 500頭の裸馬達が荒野をなだれるように駆け回るダイナミックな情景が、望遠のカメラでクローズアップされる場面の何とも言えない美しさに息を呑む。町や村や大きな街道を避けて移動してゆくので、ほとんどの日常生活が野外活動、テントもなしの素朴なアウトドアライフ、野外好きには、溜め息の出るような素晴らしい場面が続出する。
 先住民を食い物にする悪徳商人や賞金稼ぎ、娼婦として売られてゆく中国人の娘達や逃げ出した老娼婦など、二人と500頭の旅に、彩り豊かな人物が交差したり、同行したりして後半は、緊張感が高まり、西部劇の醍醐味もタップり味わえる。
 途中に何度か悲しいシーンをまじえながら、次第にドラマの奥行きを深めて、最後はちょっぴり苦い味の爽やかなハッピーエンドで締めくくり、後味もなかなか。
 主人公の老練なカウボーイを演じるロバート・デュバルの渋い演技が燻し銀の輝きを放つ。名前は分からないが、賞金稼ぎの悪役の存在感もなんとも不気味、道連れになる5人の中国人の娘さんたちとすんなり言葉が通じないところも効果的。撮影に思いっきりコストかけたことが分かる贅沢な映像の美しさを堪能したい。
 古き良きアメリカ映画が好きだった人なら、この作品に3時間を割いても損はしない。DVDがあるようなので見つけて見て欲しい。