武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 自治体が率先して生み出す影の雇用難民

 今日の朝日新聞は、社会面の3面を大きく割いて、「あしたを考える」で非正規公務員の問題を取り上げた。自治体の深刻な財政難を背景に、雇用形態が不安定で低賃金の非正規公務員が増加を続け、今や何と40万人、公務員の4人に1人が非正規の職員が占めていると言う。全公務員の統計なので、住民が接するような現場の職員に限ると、この割合はもっと大きくなるはず。ほとんどの人は、この実態に気づかないでパート公務員のサービスを受けているものと思われる。<人件費>を<物件費>として扱うことの究極の人件費削減。何という誤魔化しの自治体経営。
 これらの事実がもつ問題点を、朝日新聞の記事は、ほぼ適確に捉えていると思ったが、自治体の胸算用、将来像を取材すると、さらに深刻なことがわかってきたに違いない。私の知っているある自治体では、正規職員の比率を3割程度まで減らして、7割はパート職員でカバーできるという、展望すら描いているという極端なまでの事例がある。住民へのサービスコストを極限にまで下げようとする、行政改革の最悪のパターンだ。このところ流行の公務員バッシングの勢いに乗って、自治体の影の部分では、とんでもないことが進行しようとしている。非正規公務員体制が進行する自治体が抱える問題点は少なくない。
 ①就職難が労働市場で慢性化している限り、企業から疎外された優秀な人材に事欠かないだろうが、労働市場のバランスは景気次第で大きく変る。企業が人材をあさり始めるようになり、自治体の臨時職員の仕事がわりが合わないことが知れ渡ると、いずれは人手不足の時代が来る。結果は、質のいい住民サービスが人材的に不可能になる日が来ないとも限らない。
自治体の管理職は、任期の僅か数年の見通ししかもてない宿命にある。自分の任期中の仕事さえ上手く運べば昇進に支障はない。短期的な見通しの下、非正規職員依存体質が問題を含みながら今後も破綻するまで継続してゆくことであろう。
③非正規職員の労働意欲は、低賃金と不安定な身分保障のために、必ずや低下してゆく。自治体のサービスの質の低下につながらないはずがない。自治体の安易なボランティア活用とあいまって、不自然な雇用形態は、この国の労働市場にいびつな歪みをもたらしている。
④隠れたワーキングプアは、いずれはっきりした姿を現す。低賃金の主婦労働が、底辺労働者をホームレスや路上生活者を生み出したように、自治体の非正規雇用は、自治体労働をいつの間にか形骸化するに違いない。適正な賃金で適正に雇用されてこそ、人には働いて生きる意欲がわいてくるもの。
⑤事業体としての自治体には、社会的に望ましい雇用形態を労組との交渉を通じて維持する、社会の基準としての役割を期待するが、現状は、企業も目をそむけるような権利剥奪の雇用が進行しているのが実情。現在進行中の自治体で進行している非情な非正規雇用職員の実態をもっともっと暴く必要がある。今まで省みられることの少なかった問題なので、今後の取材に、大きな期待を寄せたい。
 とても良い記事だったので、朝日新聞の本文を全文引用したい。

非正規公務員 法の谷間
フルで働いて年収140万
パート法適用外・雇用保障なし

 役所の職員といえば、「雇用が保障され生活が安定している」と思われがち。だが財政難のなか、低賃金で不安定な非正規雇用の職員が増えている。公務員だからとパート労働法などが適用されず、非正規だからと雇用の保障もない「法の谷間」の働き手たち。公務員制度改革を語るとき、こうした「官製ワーキングプア」の問題が置き去りになってはいないだろうか。 (編集委員竹信三恵子、友野賀世)
 「公務員はクビにならなくていいよね」。06年、兵庫県加古川市の公立図書館で働いていた女性(37)は、利用者の言葉に絶句した。
 02年に勤め先が倒産。司書の資格をとり、図書館を運営する団体の非正規職員になった。昨春、職場が市原常に変わり、市の臨時職員に。正職員と同じ時間働いて半分以下の年収が、140万円台へとさらに2割減った。期間1年の契約も更新しないと言われた。労組を作り交渉したが、契約は更新されなかった。
 今は別の公立図書館の臨時職員。「資格も経験もあるのになぜ続けて働けないのか。熟練したら交代、では住民サーピスーも悪化する」と怒る。
 総務省の05年調査では自治体の非正規職員は約45万人。だが、人数を毎年正確に把握する統計はない。人件費ではなく物件費で扱われるためだ。
 自治労傘下の職場の非正規職員は06年度に約40万人で、公務員の4人に1人に増加。保育士や年金相談員、女性センター職員など身近な行政を担うが、平均年収は01年の約180万円から05年の166万円に低下した。
 総務雀によると国家公務員は、06年7月現在で常勤約30万に対し非常勤約15万人。ある非常勤の30代女性は、日給7500円、週3日勤務、月収は約9万円だ。勤務日数が短く国家公務員共済に入れない。「国民年金を月1万4千円払ったら手取りはもっと減ります」

「官製ワーキングプアだ」

 非正規職員の劣悪な労働条件の背景には、財政難による正職員の定員抑制と、延長保育や開館時間延長などサービス拡大への住民の要望がある。
 地方公務員法では、非正規職員とは一時的に服う働き手だ。国家公務員も、恒常的な仕事は正職員が行うのが原則。本来は例外的な働き方が拡大利用されてきた。
 加えて、非正規職員は「法の谷間」状態にある。公務員には育児介護休業法やパート労働法が適用されないが、公務員向けの育児介護制度でカバーされる。だが、非正規であることを口実に、公務員向けの制度から外す場合が少なくない。
 千葉市の非常勤手話通訳の女性は、1年契約を更新して4年働き、育児休業を求めたところ、次の契約を打ち切られた。日本弁護士連合会に人権救済を申し立て、04年、育休を認めるよう救済勧告が出された。
 社会保険への未加入も多い。東京都江戸川区では昨年まで、「正職員の4分の3以上の労働時間、労働日数」という社会保険の加入資格を満たしても、臨時職員は未加入だった。労組の要求で区は加入を認めたが、新たな募集では、多くが資格を満たさない短時間パートに切り替えられた。
 国の非常勤はさらに不安定だ。契約は1日単位の「日々雇用」で、期間は最長半年の省庁がほとんど。国家公務員一般労働組合は「国が率先して日雇いをしている。これでは官製ワーキングプアだ」と批判する。同労組の8月の電話相談には 「お前たちはいつでもクビを切れると上司に脅された」との訴えもあった。

各地に労組、変化の芽

 変化の芽も出ている。今月1日、東京都荒川区で、同区職員労組や各地の非正規公務員の労組が、格差是正を求め集会を開いた。約170人が参加し会場はあふれた。
 同区では、正職員が20年で35%減り、非正規職員の比重が増すなかで、今年度から「主任非常勤」や「総括非常勤」の区分を設けた。賃金は一律月16万8600円だっが、最高の総括非常勤で25万300円まで引き上げた。研修や福利厚生、残業代なども認めた。
 同区職員労組の白石孝書記長は、新区分をつくるだけでは不十分だとしつつ、「非常勤労組が各地に生まれ、報酬アップや残業代の満額支給などに取り組む自治体が出てきたのは前進」と話す。
 国も今年の人事院勧告に、非常勤職員の「職務の実態にあった適切な給与」の検討などを盛り込んだ。「優秀な人が非常勤だからと低賃金で働くのは損失」(厚生労働省幹部)との声も出る。
 7月の参院選で当選した民主党相原久美子さんは、札幌市の非常勤職員出身だ。「住民の公務員批判が、制度の改善ではなく貧しい非正規職員の待遇引き下げにつながってしまう現実がある。正職員転換は難しくても、同じ仕事なら同じ時給、仕事が常にあるなら継続雇用と、実態に合わせた見直しを急ぐ時期だ]と話す。

職場の連帯・サービスも低下

 伊田広行立命館大非常勤講師(社会政策論)の話
 正規公務員でも若手は安い。年功部分が大きいため、実際の仕事の負担度と賃金が見合っていない。ここを正さず、非正規職員にしわ寄せしてしのごうとしたためワーキングプアが生まれ、職場の連帯も崩れ、サービスの質の低下も招いている。職務にあった処遇へと10年、15年計画で切り替えるなど、年配職員の不安をやわらげつつ、具体的な改定に踏み出す時期だ。