武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『ニコリ「数独」名品100選』 ニコリ編著 (発行文芸春秋)

 何年か前に退職者の純粋遊戯として恰好のゲームだという趣旨のブログを書いたが、その後精進して、雑誌を何誌か買ってみたり、文庫や新書になっているものに手を出したり、ずいぶんとお世話になってきた。いろいろやってみるうちに、すこしずつ新たに分かってきたことがあるので、途中経過を報告してみたい。
http://d.hatena.ne.jp/toumeioj3/20060402#p1

 9×9の81マスに1から9の数字をあてはめるだけのこの単純なパズルにも、最初の発案者がいて、流行の波があり、製作方法に大きく分けると2つの潮流があったりと、意外な奥行きがあることがわかってきた。ウィキペディア数独の項目に詳しいので、次のサイトをみてもらいたが、世界選手権までやっているというから、広がりもなかなか。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%95%B0%E7%8B%AC
 問題作成の2つの潮流というのは、問題作成を人間がやるか、コンピュータプロクラムにやらせるか、このふたつのこと、どちらが作ったほうが問題として面白いかということで、軽い論争のようなことがあったらしいが、結論がどうなったかはわからない。私個人の感想を言えば、問題自体のデザインは断然人間作の方が楽しいが、難問の解き味ではどっこいどっこい、どちらに軍配を傾けるか迷ってしまう。
 たくさんの問題をやってみると、<解き方の妙味>とでも言いたくなるような、味のような感触があることが分かってきた。難易度も、5段階以上のレベルに並べることができることも分かってきた。3のレベルと4のレベルの確かな違いがあること、その違いは3のレベルと5のレベルの違いと、明らかに相違すること、そんな難易度のレベルが区別出来るとは、何とも面白い。慣れてくると、低いレベルの問題は、手ごたえがなくつまらなく感じるのも不思議。
 今回紹介する本は、人間の手作り派の旗頭、パズル製作者集団ニコリ編著の「名品100選」、さすがに人がつくったものとあって、何よりも数字の配列が楽しい、ぱらぱらとページをめくっていて、思わずニヤリとしてしまう。遊び心がある人なら、眺めているだけでも楽しめる。この本のレベルまで来ると、作者名をつけた誰それの作品といっても十分に通用する。作品ごとに、作者のコメントがついていて、それを読むのも楽しかった。パズルの陰に潜む作者の素顔がチラリと見えて、人間のやることの、広さ深さについうれしくなったりする。
 旅行に行く時、文庫とともに携えてゆくことにしているが、国際線のスチュワーデスとこのパズルのことで盛り上がったり、ツアーのメンバーと話題になったり、スペインの国内線で少女たちが夢中になってやっていたり、このパズルをめぐるエピソードは少なくない。エジプトでは現地ガイドが、このパズルに夢中になって仕事がおろそかになった人がいると教えてくれたし、ツアーのメンバーのあるご婦人は、夢中になると家事が滞るので、やらないようにしていると漏らしていたのが、印象に残っている。
 確かに、時間がとぼしい現代人には、嵌るとマズイゲームかもしれないが、だからこそこの時代にヒットしたパズルなのだろう。ともあれ、この名品100選、見ていて楽しく、やってみるともっと楽しい。現役なら自制心の少しある方、退職者ならどなたにでも、楽しめることを保証しつつ自信をもってお勧めしたい。