武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『ユーリ・ノルシュテイン作品集』 ユーリ・ノルシュテイン制作・監督 (DVD販売元:ジェネオン・ エンタテインメント)

 ユーリ・ノルシュテインとい名のロシアのアニメ作家をご存知だろうか。抒情的で幻想的な映像作品が素晴らしい独創的なクリエイター。私は不覚にもつい最近まで、この名を全く知らなかった。図書館で借りた「世界と日本のアニメーションベスト150」という本のベスト1位と2位に挙げられていた作品のアニメ監督だった。個人的にはそんなに世界的に有名なアニメ作家を知らなかったことに正直焦った。
 この「世界と日本のアニメーションベスト150」という本は、この国のアニメ監督およびアニメスタッフならびにアニメ評論家などのアニメーション業界関係者138名が選んだ「ジャンル、時代、国内外を問わずすべてのアニメーションを対象にした世界初のランキング」と称するもの。その1位と2位にランキングされていたので早速入手してみてみた。文句なしに素晴らしかった。
 この国の最新のアニメーション作品は、今はほとんどCG化して高度に洗練され、目を見張るような動きと色彩を駆使して確かに素晴しい大したレベルに到達しているが、素朴な感動からは遠くに来てしまったような感じがしないでもない。それに比べれば、手作りの手工芸的な味わいを残していて、素朴だがアニメとして表現してみたいという原初の創作意欲に満ちていると言いたくなるような、色彩乱舞の文字通りの動画作品。久しぶりに画面そのものに釘付けになるという充実した鑑賞時間を楽しんだ。改めて考えてみれば、絵が動くということ自体とても素晴らしいことだったんだということを再発見。
 入手したDVDに収録されている作品は次の通り。ほとんどの作品がここに含まれている。

01. [25日・最初の日](1968年/12分)
02. [ケルジェネツの戦い](1971年/12分)
03. [狐と兎](1973年/12分)
04. [あおさぎと鶴](1974年/12分)
05. [霧につつまれたハリネズミ](1975年/12分)
06. [話の話](1979年/29分/)
07. [愛しの青いワニ](1966年/9分)
08. [四季](1969年/9分)

 数々の国際的な映画祭で作品の優秀さが表彰されたらしい。下記のサイトに行くと、ユーリ・ノルシュテインについて詳しく紹介しているので参考にしてほしい。
http://www.comicbox.co.jp/norshtein/top.shtmlユーリ・ノルシュテインの仕事)
http://www.geneon-ent.co.jp/anime/NAA/index.htmlジェネオンのアニメサイト)
 「霧につつまれたハリネズミ」などを見ていると、この感性は日本人にはないものだなという感じを受ける。ロシアという北国の風土に根ざした想像力とというか、そう言いたくなるような異国の情緒に満ちていて何ともいえない。全体を通して、切り抜いた絵を巧みに組み合わせて作った思われる動きが、素朴でしかも洗練の極み、驚くほどに素晴らしい。色彩も教会の暗闇にひそむ中世の宗教画のような色合いで、独特。シャガールの絵が動き出したのかと勘違いしそうなほどきわめて個性的。文字で説明するのがとても難しい。
 1991年12月25日−−ソヴィエト連邦崩壊、この年以降の新しい時代の作品が見られないのがチト残念、ずっと制作中といわれる「外套」という作品を早く見てみたい。
 これらの作品をはたして子どもが喜ぶかどうか疑問があるが、ひねこびた大人の童心を打つ何かがあるような気がした。アニメーション業界関係者が感涙にむせぶという作品を一目見たいと思う方、最近はDVDも安くなり入手しやすくなっているので是非ご覧になっていただきたい。