武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

『ミレニアム3―眠れる女と狂卓の騎士上下』 スティーグ・ラーソン著 ヘレンハルメ美穂、山田美明訳 (発行早川書房2009/7/10)


 上手くできた長編ミステリィの最終巻、巧みな物語作りでたくさんの登場人物を縒り合わせ、勢いよく流れる大きな河のようにして進んできた娯楽巨編が、遂に幕を下す。どんな幕切れを見せてくれるのか、ワクワクしながら一気に読み進んだ。主人公リスベットを被告人に仕立てたリーガル・サスペンス、リスベットとアニカが臨む法廷での公判シーンは、胸がすくように爽快、丁々発止とやりあう会話の緊張した遣り取りが手に汗握らせる。良い手を使ったなと感心しながらすっかり楽しませてもらった。
 良いミステリィ作家は、情景描写と会話が上手いの通例通り、この作品の会話もなかなかだった。特に寡黙を絵に描いたようリスベットを中心に置いた時点で、この物語は、リスベットの少ない台詞に相当の工夫を必要とするという課題を背負い込んだ。その解決策として、周辺の人物と、パソコンによるより遣り取りに多くを語らせるという代替案を駆使することとなった。それが不自然にならないような工夫も上手くいった。成功したサスペンスと言って良い。
 主人公のリスベットが、物語の進行と共に徐々に、大人の女として人間的に成長してゆくところが、読んでいて気持ちよかった。軽率がピンチを招くということを文字通り身にしみて学習し、慎重に次の行動を選択するシーンでは、読みながら密かに声援を送ったこともあった。楽しい読書体験だった。
 残念だったのは、悪の元凶ザラが途中で死んでしまい、最後までリスベットの敵役として立ちふさがってこなかったこと、一読者としては、ザラとリスベットの熾烈な全面対決による決着を何度か期待したことがあったので、肩すかしを食らったような失望を感じた。だが、これはしがない読者の無い物ねだり、たっぷり楽しませてもらったことに感謝すべきだろう。著者のネットワーク知識を生かした新たなエンタテイメントの構築に、素直に拍手を送ろう。改めて著者スティーグ・ラーソン氏のご冥福をお祈りしたい。
 ミステリィ好きで、まだお読みになっていない方には、是非お勧めしたい。忙しい仕事やテストなどが控えていると時は、くれぐれも手を出されませんように、引き込まれてしまい時間を取られてしまいます。