武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『DZ(ディーズィー)』 小笠原慧著 (発行角川書店2000/05)


 連続してミステリィの紹介で気が引けるが、蒸し暑いこの国の夏は、筋を追いかけて暑気払いでもしなければ、やってられないというのが本音。この本も、冷房を求めてbookoffの廉価コーナーで偶然に手にして、意外に面白かった一冊。帯に横溝正史賞受賞とあったのもつい手に取ってみた理由の一つ。
 著者の文章に慣れるまでは、少し生硬かなという感じを受けたが、途中から気にならなくなり、場面転換の切り替えにも一定の枠組みが設定されていることが分かり、物語の流れに乗れた。なじみのない遺伝学と進化論の世界をベースにしたミステリィが目新しくて、わくわくしながら楽しく読めた。
 読み終わって最初からページをめくり直してみると、明瞭な著者の意図が浮かび上がり、ナルホドと納得し直したことが少なくなかった。理科系の新人らしい、理屈っぽい構成に好感が持てる。これだけの筋立てを作れる力がある人なので、将来が楽しみという感じを持った。さっそく、次作をネットで注文した。この作者が、思い入れを込めて造形した人物が登場するような物語を、是非読みたい気がしたから。
 このお話、若々しくて新鮮で、読後感がわりと爽やかだった。感情移入しやすい登場人物がいなかったが、物語自体は良くできているので、手にとって損はない。期待して何冊か読みたくなるような若さが感じられます、未読の方は是非どうぞ。