武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『オキナワなんでも事典』 池澤夏樹編 (発行新潮文庫2003/7/1)


 沖縄のことを知るための本としては、必携の一冊だという気がしていたのだが、全部読んでからと思っていたら随分時間が経ってしまったのに、まだ読み終えていない。前書きにあるように中身は、<事典>のスタイルを借りたエッセイ集、項目ごとに筆者の思いが込められた熱のこもった紹介が多く、事典を読むのに比べるとはるかに満足感があり、それが満腹感になって先を読みすすむ気持ちが萎えてしまうせいかもしれない。
 このことを褒め言葉のつもりで書いているのだが、ことほど左様にこの小さな文庫本は充実しているのである。エッセイ集とはいっても、やはり<事典>なので、通読するのはつらいということにしておいて、気がついたことをいくつか拾い上げてみよう。
(1)本書ができあがってきた経緯が面白い。最初は新潮社の「とんぼの本」の一冊として「沖縄なんでも事典」を沖縄好きのナイチャー(本土の人々)が執筆してできあがったのだが、それが時代の経過でCD-ROM版の「オキナワなんでも事典」に再編され、さらにインターネット版に発展、ウチナンチュー(沖縄の人々)により記事が充実してゆき、最後にインターネット版を本で読みたいとの要望に応えてこの文庫版「オキナワなんでも事典」は出来上がったのだと言う。この三段飛びの過程で項目数と執筆者数が増えていったということらしい。吃驚するほど執筆陣が豪華なこともこの本の特徴の一つ。
(2)沖縄の文化に触れるとき、異文化に接触するときのような軽いカルチャーショックを伴った驚きがあり、こちらの好奇心をいっそうかき立てられることが多い。そんな時、やはり何らかの文字情報を手がかりに好奇心を満たそうとすると、記述が第三者的で説明も不足しており欲求不満になるばかりだった。だから、書棚には沖縄関連の本が増え続けてきた。それが、この本に出会ってから、もう沖縄本は増えていない。こちらが期待する情報と執筆者の思いが、ちょうどよく伝わりこれまでの空腹感がかなり解消されたからだろう。
(3)後には、事典らしく分野別索引で、項目が整理されているが、それを見ると本書の充実ぶりが一目で分かる。私は暇なとき、この分野別項目から、興味を引かれる項目を捜して、いろんなところを拾い読みして楽しんでいる。項目によっては、次から次へと興味がつながり、気がつくとかなりの時間が経過していることもある。エッセイ集かと思えば事典、事典かと思えばエッセイ集、項目ごとに大きな振幅であっちへ行ったりこっちへ行ったりするところが何とも面白い。
 沖縄が少し好きになってきた方には特にお勧め。