武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『Life 生命という奇跡 [全10話]』 WOWOW ドキュメンタリー 制作BBC


 9日からWOWOWで朝の8時半から2時間枠で連続5日間、「生命という奇跡」というドキュメンタリー番組を放映していた。BBCが35億円の経費と4年の歳月をかけた自然映像番組というふれ込み。確かに思わず息を飲むような映像が度々出てきて、何度も吃驚させられた。今回の再放送では、2本ずつ5日間に分けて放映された。これ以上連続してみるのは無理がある。年のせいか、ひとつのエピソードだけでもけっこう重く、一日2本を消化するのもけっこう大変だった。9月にDVDバージョンの日本語版が発売されるらしいので紹介しよう。
①何よりも映像が凄い。俯瞰する広角度のハイビジョン映像の美しさもさることながら、生態の決定的瞬間にせまるアップの高速度撮影を駆使した動画が驚異的、どんなカメラでどうやって撮影したのか、そんな技術的なことが気になるような驚異の映像が次々と出てきて目を離せなくなる。この年になって、こんなに何度も仰天させられるとは思ってもみなかった。私はどちらかというと地味で目立たない身近な所にいる生き物が好みなのだが、地球上には想像を絶する生き物が沢山いると言うことを改めて教えられた。生き延びていくために、生き物はとんでもない戦略を身につけて、必死で頑張っている姿が迫ってきて、思わず言葉を失ってしまう。
②全編にわたって編集のテクニックとして、生き物の営みを物語化してみせる手法が採用されている。懸命に生存競争を生きる特定の個体にカメラを焦点化、個体や親子の姿を執拗に追跡して見せてくれる。可愛い幼子と親の育児の営みを見せられると、いつの間にか子育ての物語に感情移入してしまいそうになる。ハッピーエンドもあれば残酷な悲劇もある。時には笑ってしまう場面もある。よくある見せ方だという気がしないでもない。だが、自然界には、近代の人間界のような個体を意識するような、物語などあり得ない。編集技術を通して作り出した擬人化のなせる錯覚であろう。進化論が教えるように、自然界の営みの主体は<種>の存続にある。物語を作り出し物語を消費する人類の、動物としての特異なあり方に改めて感心し直した。人間は、産まれて死ぬまでを一遍の物語として生きるのである。
③ファーブルの昆虫記は、昆虫という狭い範囲のミステリアスな生存戦略探求の書物だったが、このシリーズは、映像という圧倒的な説得力をもって、多様な動植物のサバイバル戦略を見せつけてくれる。子どもの頃、ディズニーの「砂漠は生きている」というドキュメンタリー映画を見て驚嘆したことを思い出した。あの傑作と同様、子どもが見ても大人が見ても誰もが楽しめる、傑作ドキュメンタリーに仕上がっている。
 全10エピソードのタイトルは以下の通り。

1 生存のための試練−驚異のサバイバル
2 爬虫類と両生類−しなやかな繁栄
3 哺乳類−つながり合う力
4 魚類−水の支配者
5 鳥類−翼を託された特権
6 昆虫−限りない多様性
7 命の攻防戦−弱肉強食を超えて
8 深海−生命の故郷
9 植物−動かぬ勝利者
10 霊長類−創造と共感

 全部見るには9時間ほどを要する大作、夏休みなどの時間があるときにじっくりご覧になることをお勧めする。一つ見るだけでもけっこう疲れる。日本語版では、中井貴一が朗読しているが、ゆったりした語り口がなかなか良かった。
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