武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『日本SF全集・総解説』日下三蔵著(発行早川書房2007/11/20)


本書は編集構成のプランしか存在しない架空の「日本SF全集」の解説という、いかにもSFらしいコンセプトのブックガイドである。手にとって見るまで、まさかそんなこととは思わなかったので、思わずニンマリしてしまった。アイディアは遊び心たっぷりだが、内容を見ると真面目そのもの、パッケージと中味とのアンバランスが何とも嬉しい。目次と内容を飛ばし飛ばし読んだだけでも、日本のSFの広大な沃野を実感できた。恥ずかしながら未読の作者や作品が多くあり、長い間SFの熱心な読者ではなかったことを痛感した。
スタニスワフ・レムの架空の書物に対する書評集『完全な真空』と『虚数』のアイディアを連想した。こちらは全集は架空だが、作家も作品も実在するので全く違うが、似たものを感じた。
①内容は、作家のデビュー時期を三期に分けて、合計47名のSF作家を詳細かつ簡潔に紹介したもの、だからこの全集の全巻は、アンソロジーを加えて48巻編成となる、夢の全集。
②全集に収録するという大前提での解説なので、収録作品の選定に厳しい制約がある。「長編と短編を取り混ぜて原稿用紙1600枚程度、普通の単行本4冊分」という枠組みが面白い。収録する作品は解説の中でゴシック活字を使い、作者の幅広い作品紹介につとめているところが真面目な解説らしくて良い。分厚い立派な全集になるのはわかるが、多分売れないだろうな。我が家でも、収納するスペースがない。電子書籍ならいいかな。
③よほどSFというジャンルに詳しい著者らしく、SF作家の紹介が実に行き届いている。これまでに何冊か手にしたSFのブックガイドの中で、これほど整理された解説文を読むのは初めて。内容が盛りだくさんなので一気にはとても読めない内容の濃さなので、この本は蔵書に加えて少しずつ消化しじっくり楽しむことにしたい。SFへの視野が一気に広がりそう。
以下に、全集のカタログを兼ねた目次を引用しておこう。戦後のSF界がいかに優れた文学の沃野だったか、顔ぶれを見て良く分かる。

[第1期]1957―1971
第1巻 星新一
第2巻 小松左京
第3巻 光瀬龍
第4巻 眉村卓
第5巻 筒井康隆
第6巻 平井和正
第7巻 豊田有恒
第8巻 福島正実
第9巻 矢野徹
第10巻 今日泊亜蘭
第11巻 広瀬正
第12巻 野田昌宏
第13巻 石原藤夫
第14巻 半村良
別 巻 アンソロジー
[第2期]1972―1977
第1巻 田中光二
第2巻 山田正紀
第3巻 横田順彌
第4巻 川又千秋
第5巻 かんべむさし
第6巻 堀晃
第7巻 荒巻義雄
第8巻 山尾悠子
第9巻 鈴木いづみ
第10巻 石川英輔
第11巻 鏡明
第12巻 梶尾真治
[第3期]1978―1984
第1巻 新井素子
第2巻 夢枕獏
第3巻 神林長平
第4巻 谷甲州
第5巻 高千穂遙
第6巻 栗本薫
第7巻 田中芳樹
第8巻 清水義範
第9巻 笠井潔
第10巻 式貴士
第11巻 森下一仁
第12巻 岬兄悟
第13巻 水見稜
第14巻 火浦功
第15巻 野阿梓
第16巻 菊池秀行
第17巻 大原まり子
収録作品一覧