武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『味のなんでも小辞典』日本味と匂学会編 (ブルーバックス2004/4/30)


味覚について調べていて、このブルーバックスの1冊を手に取った。サブタイトルの「甘いものはなぜ別腹?」に興味をそそられた、目次を見て読まずにいられなくなった。気になる疑問がずらりと並んで、読者の気持ちを引きつける。一読、どの回答も科学的根拠をハッキリ示して、大変に分かりやすい。はぐらかしは一切なし、名回答の連続だった。
本書の構成は、全10章の章立てになっているが、それよりも全部で84項目設定されている味覚や食についての疑問が素晴らしい。気に入ったものを幾つか引用してみよう。
・甘いものはなぜ別腹?
・食塩の代用品はなぜないの?
・うまみ調味料はなぜ舌に残るの?
・ワサビは辛いのに、食べても汗が出ないのはなぜ?
・おいしい水ってどんな水?
・ビールの辛口ってどんな味?
かくのごとく素朴だが本質を突く疑問84項目すべてにわたって明解に回答されている。一つ一つは単純な疑問なのに続けて読んでいくと、次第に味覚についてまとまった理解ができてくるようで、読んでいると頭が良くなった気がしてくる。50人の回答者の文責がキチンと示されていると言うのもいい。文体が統一されているのは編集過程の調整だろう、大変に読みやすい。
付け加えて、食物のコラムが11、基本解説という味覚の解説文が12項目、これらの情報が合わさって、味について分かったという気持ちがわいてくるのだろう、上手い編集方法である。
興味のあるところだけ読むのもいいし、全体を通読するのもいい。味覚について書かれた一冊の本となると、記事と記事と繋げるための理屈など、余分な文章で隙間が埋まっていることがあるが、疑問と回答のスタイルに絞り込むと、新書の小冊子でもこれほど充実した内容になるのかと感心した。良い疑問を設定することが如何に大事か、痛感させられた。
全体の概要をお伝えするために、目次を引用しておこう。

1 五つの基本味―甘味、塩味、酸味、苦味、うま味
2 味の仲間―辛味、コク、渋味、その他
3 味総合
4 味と口腔感覚―温度、食感、咀嚼
5 においと味
6 味と年齢
7 味と体
8 酒の味
9 食材から見た味
10 味の雑学

この10本の柱の周りに、秀逸な疑問と回答が配置されているのが本書である。良い疑問の教育的効果が見えてくるので、教育関係者にお勧めしてみたい。