武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 11月第4週に手にした本(21〜27)


*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新していきます。
興津要著『写真で見る大衆文学事典』(桜楓社1978/1)*近世文学の興津要氏が書いた映画化された大衆文学の目録、初出の雑誌もしくは初版本の画像の口絵が、そのまま目次になっている面白い編集、配列はアイウエオ順で事典風、記述は梗概と鑑賞の二分法で統一されている。趣味以上研究以下といった水準だが、ぱらぱらとめくっていると意外に楽しい。古い記憶を持たない若い人には勧められない。
◎山口輝久編『エーデルワイス・シリーズ6山頂への道』(角川書店1968/8)*この国の近代登山史を飾った文集を集めたもの、編者の「日本の近代登山の歩み」という解説が簡潔にまとまっている。「雪と岩への挑戦」「非情の闘い」の中の幾編かが先鋭的な登山の姿を活写して胸を打つ。全6巻のこのようなシリーズも今は不可能だろう、寂しい。 
◎作曲家別名曲解説ライブラリー21『ヴィヴァルディ』(音楽之友社1995/4)*ヴィヴァルディの音楽の全体像が知りたくて手にした。リオム番号を見る限り生涯で800タイトルもの膨大な作品を残している。この本では各種協奏曲をメインに紹介している。オペラや宗教曲もたくさんあるようだが触れられていなくて残念。
山村修著『もっと、狐の書評』(ちくま文庫2008/7)*以前にも紹介したことのある「狐の書評」のベスト集、どなたが編集されたか分からないが、名書評の選りすぐり、悪かろうはずがない。美味しい文章揃いで涎が垂れてきそう。付録の「未収録書評リスト」もいいが、どうせならまとめて一冊出してほしかった。
工作舎編『ブックマップ』(工作舎1991/7)*20周年記念出版とある。20年間に工作舎が出した100冊にそれぞれ8冊を関連づけたブックガイド、極めて恣意的な選択が時には読む者の好奇心に触れることがあり、開架式書架をぶらつく時のような楽しみがある。
縄田一男著『捕物帖の系譜』(中公文庫2004/7)*「半七捕物帖」「右門捕物帖」「銭形平次捕物帖」この三大捕物帖の流れを辿ることにより、明治から昭和への時代の変遷を時代小説の一形態である捕物帖を通して追認しようとする試み。江戸が震災前の東京へ、震災を境にさらに変化して新東京への変貌してゆくにつれ、人々の生活も気持ちの変わっていく様子が捉えられていて面白い。
◎日本味と匂学会編『味のなんでも小辞典』(ブルーバックス2004/4)*新書サイズながらとても楽しく読める味覚の解説書。真面目に科学的。レビューをアップ。
駒尺喜美著『吉屋信子―隠れフェミニスト』(リブロポート1994/12)*女流大衆小説作家を辿っていて吉屋信子に行き当たった。大衆小説史から抜けがちな女性読者に迎えられた女性作家が気になった。性差別との闘いに光を当てていて興味深い。
尾崎秀樹大衆文学の歴史(下)戦後篇』(講談社1989/3)*<廃墟から><復興期><隆盛の時代><新たな展望>4期に戦後を時代区分しながら、個別作家論で構成されている。丹念に作品を読み解き作家像を描くことによって大衆文学像を描こうとした力作だが、包括的な戦後大衆文学論ではない。
山村修著『書評家<狐>の読書遺産』(文春新書2007/1)*2006年に著者が亡くなってからまとめられたので<遺産>の言葉がつくタイトルになったと思うが、連載時の「文庫本を求めて」の方がしっくりする。毎回2冊の文庫を取りあげた書評なので、セットになった2冊の響き合いが何とも言えない。書評の対位法とでも呼びたくなった。
◎板垣直子著『明治・大正・昭和の女流文学』(桜楓社1957/6)*女性よって書かれた近代大衆文学をチェックしていてこの本を手に取った。丁寧に近代文学をフォローしてあるが、読者論の視点があるともっと深まったかな、無いものねだり。
ドナルド・キーン著/金関寿夫訳『百代の過客・日記に見る日本人』(朝日新聞社1984/12)*日記文学という視点から日本文学の特質を捉えた名著、この本を読んでいるといつも「菊と刀」を思い出す。日本人論として読むと複雑な感慨が湧く。
鶴見俊輔著『大衆文学論』(六興出版1985/6)*大衆文化と言う視点を常に大切にしていた著者の最も得意な分野、捻りのきいた生きの良い論考が並び今でも充分に刺激的。
◎リチャード・アダムス著/岡部牧夫訳『昼と夜の自然』(評論社1981/6)*同じ著者の『四季の自然』の姉妹篇、イギリスの豊かな自然を昼と夜という切り口で解説した自然観察入門書、精緻なイラストが大変に美しい。アダムスの装飾的な文体がイギリスの自然を見事に描き出す、この作者は天性のナチュラリストだ。
◎ヘニング・マンケル著/柳沢由美子訳『殺人者の顔』(創元推理文庫2001/1)*スウェーデン発の警察小説ヴァランダー警部シリーズの1作目、北欧の暗く冷たい情景を背景に、幾重にも日常生活の苦悩を引きずった中年刑事が、殺人事件の捜査に取り組み、スウェーデンが抱える社会問題に巻き込まれてゆくというプロット。主人公が相当にかっこ悪いことと、文体の切れ味が良いことが長所、事件解決への筋道が本格派でないことが気になるが、このシリーズには当分嵌りそう。