武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 電子書籍 事始め(1)

 暮れに、予約しておいたキンドル(ペーパーホワイト)が届いたので、電子書籍が自分の読書生活にどのように入り込んできているか、極私的なレベルで少し考えを整理しておこうという気になった。
 まず、どこまでを電子書籍とするかという問題、Wikipediaの定義を参考にして、人間社会で長い間使われてきた<紙とインクによる印刷物としての書物>以外の、デジタル信号に変換されて流通しているまとまった情報、とでもしておこうか。この、<紙とインク>を使わないということと、<印刷物ではない>というところは外せないだろう。とりあえずこの簡単な定義から始めてみよう。

《電子辞書の進化》

 さて、最初に電子書籍らしきものを使い始めたのは、10数年前になるが、まず電子辞書だった。初代は行方不明になってしまったが、確かシャープの製品だった。持ち重りのする広辞苑や英和/和英辞典など数種の辞書をポケットやカバンに入れて携帯できるなんて、そのコンパクトなこと、情報量の豊富なこと、人にも薦めたりして数年愛用した。
 海外旅行の折などにはとても重宝した。おかげで、言海や新明解など、読むことを目的に持っている数冊の<読み物としての辞書>を残して、ほとんどが処分の対象になってしまった。
 何年かして今度はカシオに買い換えた。収録している辞典が増えたことと、画面が大きくなって見やすくなったことが買い替えの理由だった。メモリーカードにお気に入りの古典を記録してテキスト化した読み物を持ち歩けるようになった。エジプトで方丈記が読めたりして面白かった。 (右の画像は2台目のカシオ

 あれからずっと電子辞書は手放せない。紙の辞書が持っている質感や閲覧性など、何物にも替えがたい長所はわかっているつもりだが、総合的には電子辞書にかなわないという気がする。ただし、初めて辞書の使い方を習う小学生には、やはり紙の辞書ではじめてもらいたいと思うが、今の教育現場ではどうなっているのだろう。

 電子辞書の市場規模は、ここ何年か年間200万台で推移しており、大型家電量販店の電子辞書コーナーには、どれを選んでいいか迷うほどにたくさんの機種がひしめいている。価格.comの電子辞書業界市場シェアデータ速報を見ると、電子辞書メーカーは現在のところ以下の5社がしのぎを削ってシェア争いを展開しているようだ。カシオ(69.44%)、シャープ (21.70%)、セイコーインスツル(4.90%)、キャノン(3.56%)、シチズン(0.16%)。いつの間にかソニーは撤退してしまい、カシオとシャープが90%以上を占めて勝負あったの感じがしないでもない。
 電子書籍の端末も、将来は、電子辞書のように家電量販店に並び、収録データの質と量を競い合い激しいシェア争いをするヒット商品になるのだろうか。紙の辞書が気になって、書店の辞書コーナーを覗いてみると、従来型の紙の辞書の方は健在、当分 電子と紙が並行する販売スタイルが続いてゆくのだろう。

 電子辞書を一種の電子書籍として考えてみると、最新の電子辞書がどうなっているか気になって調べてみて驚愕、なんと青空文庫グーテンベルクなどと提携して、文学作品を和洋2000点までも収録しているものまである。収録コンテンツも100を超えるものはざら、最近の機種ではカラーモニターが売れ筋だという。
 遅れてはならじと、最新のものを一台買おうかと思って、中規模の家電店を覗いてみたが、電卓と電子辞書はほとんど置いてなかった。中規模の家電販店では売れ筋の商品ではなくなったということか。しょうがないのでネットで検索して手頃そうなものを注文することにした。 (左の画像は3台目のカシオ、電子書籍に限りなく近い)

 手元に届いたカシオの電子辞書は驚くべき進化を遂げていた。飛躍的にメモリーが増えたのだろう。収録コンテンツが増え、画像表示が進み、カラーも美しい。簡単に使いこなせないほどの情報量。特に吃驚したのは、文学作品の収納量、日本文学は源氏物語大菩薩峠も半七捕物帳もドグラマグラもなんでもござれ、英文の世界文学になると、戦争と平和罪と罰も、デイヴィッド・コパフィールドもシャーロック・ホームズも、こんなものまで入っているのかと感心するばかり。
 定番作品に関しては、もう限りなく電子書籍に近い。どこまで電子辞書は進化してゆくのだろうか。電子書籍との距離はそれほど遠くないような気がしてきた。

(続く)