武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『死とどう向き合うか』アルフォンソ・デーケン著(NHKライブラリー)

toumeioj32006-01-08

 本書の表紙のコピーに「生と死を深く見つめてデーケン「死生学」の集大成」とあるが、全くそのものずばり、死を対象とする学問的な話題から医学的なアプローチを除いたほぼ総てが、簡潔に分かりやすく書かれていて「死生学」入門書としてこれ以上ないと思われる内容。<死>とは何だろかとふと疑問に思ったら、あるいは<死>についていろいろ聞かれたら、<死>について観念的に語ったり抽象的に怖がったりすることにあまり意味がないので、この本を薦めてあげるのが良い。
 現代社会は<死>から眼をそらすことにより、何事もないかのように動いているところがあるが、実はいたるところで<死>と隣り合わせに暮らしているというのが本当。交通事故だけでなく、いったん何か事があれば、私達はいとも簡単に死の淵に転がり落ちる。生きているということは、そういうことだと分かってはいるつもりでも、実際に事に直面するとあわてふためいてしまう。日々の生活をより意義あるものとしてとらえ返すためにも、一読をおすすめしたい好著。内容が多岐にわたるので、まず、本書の目次を引用しよう。

はじめに
第1章 死を見つめる時〜死生学とは
第2章 遺される者の悲しみ〜悲嘆のプロセス
第3章 人生の危機への挑戦〜独りぼっちになる前に
第4章 突然の死のあとに〜独特な心の傷痕
第5章 無視される悩み〜公認されない悲嘆
第6章 自殺を考える〜自殺を予防するには
第7章 生命の終わり方〜尊厳死安楽死
第8章 病名告知をめぐって
第9章 死への恐怖を乗り越える
第10章 自分自身の死を全うする
第11章 芸術の中の死
第12章 「死への準備教育」のすすめ(I)〜幼児から青少年のために
第13章 「死への準備教育」のすすめ(2)〜大学生・中高年に向けて
第14章 諸外国のホスピス・ケア
第15章 日本の終末期医療への提言
第16章 ターミナル・ケアとユーモア
第17章 死後の生命への希望

 第1章は、表題どおり<死生学>の何たるかについての説明、第2章から第5章までは、家族や隣人との死別に遭遇した生き残った側の心理的ダメージとその回復について、<悲嘆の問題>が角度を変えて分かりやすく解説されている。第6章から第11章までは、自分自身の死の問題と死がどのように取り扱われてきたかについての、いろいろな角度からの解説、第12章と第13章は、「死への準備教育」のすすめ、第14章から第17章までは、終末期の問題。どの章も費やされているページ数は少なく、説明はどこでも要約されているが平易で分かりやすい。著者が遭遇したり見聞きしたりするエピソードがふんだんに挿入されていていっそうわかりやすくなっている。
 詳しく知りたい人にとってはやや物足りないかもしれないが、<死生学>の概要を知るための入門書として最高の1冊。ドイツ生まれの元ドイツ人が、かくも平易で達意の日本語を駆使しているのは、ちょっとした驚異。驚くべき分かりやすさなので、翻訳ものの苦手なひとにもお勧め。読んでいると気持ちが落ちついてくるのがこの本を読む効用、暗くならないので是非手にとってほしい。