武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『成人病の真実』近藤誠著(発行文芸春秋)

toumeioj32006-02-04

 この国の医療のあり方に対する遠慮会釈のない検証と告発の書。多項目にわたる検討の性質上、当たり前のことだが本書のデーターは、自らの実験データに基づくものではない。既発表の医学論文をつぶさに検討して、著者なりに論理的に到達した結論だということが、前書きに書かれている。02年に単行本が、04年に文庫本が出版されている。
 文章は極めて明快、論旨によどみがなく、次々と浮かび上がってくる結論には、医学に素人の私でさえ背筋が寒くなる。「白い巨塔」という医療疑惑への見事なネーミングがあるが、近藤さんのこの本から浮かび上がってくるこの国の医療制度の腐敗振りを何と呼べばいいのだろう。
 中高年の方には、第一部が参考になると思う。<高血圧><コレステロール><糖尿病><脳卒中>成人病と呼ばれたり生活習慣病と呼ばれたりする疾患について、眼からウロコが落ちるような指摘に満ちている。
 ちいさいお子さんがいる方には、第二部をお薦めしたい。インフルエンザや風邪についての、貴重な示唆が随所にある。わが子を守るのは、医者ではなく、親である自分だということが、明確に示される。
 著者が得意とする<がん>についての情報は、第三章に披瀝されている。近藤さんの本が始めての方なら、この章でも衝撃に満ちた情報に出会えると思う。文庫本なら571円が定価。12本のショッキングな医療情報がこの値段で入手できるなら損はないと思う。内容を概観する意味で目次を引用しておこう。

第一部
第1章 高血圧症「三七〇〇万人」のからくり
第2章 コレステロール値は高くていい
第3章 糖尿病のレッテルを貼られた人へ
第4章 脳卒中予防に脳ドック?
第二部
第5章 「医療ミス」医師につける薬はない
第6章 インフルエンザ脳症は薬害だった
第7章 インフルエンザワクチンを疑え(インフルエンザ薬害から子供を守れ)
第8章 夢の「がん新薬」を採点する
第三部
第9章 ポリープはがんにならない
第10章 がんを放置したらどうなる
第11章 腫瘍マーカーに怯えるな
第12章 定期検診は人を不幸にする

 最後に、自分や自分の家族の健康についての判断は、あくまでも最後は自分で決めること、そのために、あくなき情報収集と健全な健康習慣づくりが、健康の基盤になることはいうまでもない。近藤さんの本も、妄信してしまっては、かえって弊害の元になりうることを心したい。