武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『教育と国家』高橋哲哉著(講談社現代新書)

toumeioj32006-04-17

 与党の教育基本法改正案の国会提出が、時間の問題になってきている折、すこし頭を冷やしてこの問題の背景と本質を考えてみたくなり、この本を手に取った。著者は、比較的冷静に教育基本法を改正しようとする一群の人々の歴代の問題発言を分析、その背景を流れるタテマエとホンネを分かりやすく指摘、改正問題の背後に潜む新国家主義イデオロギーの存在を浮き上がらせる。この明晰で鮮やかな論理展開は、なかなか見事。
 それにしても、現在、各地の教育現場で進行しつつある教職員統制の過酷さを読むと、背筋が寒くなる。本当にこの国の今現在、こんなことが許されていいのかと思うようなことが教育現場に起きつつあるようだ。権力と管理の問題に背を向けてきた戦後教育のツケが、こんな形で教育現場を席巻するようになるとは・・・。
 わが子をどんな学校に通わせたいか、目先の利益を度外視して、本気になって考えてみようという若い方に是非お薦めしたい。この国の人々は、かつて国家主義者にみごとにだまされた苦い経験を持っていることを忘れまい。
 内容を知る参考になるので、目次を引用しよう。

第1章 戦後教育悪玉論―教育基本法をめぐって
第2章 愛国心教育―私が何を愛するかは私が決める
第3章 伝統文化の尊重―それは「お国のため」にあるのではない
第4章 道徳心と宗教的情操の涵養―「不遜な言動」を慎めという新「修身」教育
第5章 日の丸・君が代の強制―そもそもなぜ儀式でなければならないのか
第6章 戦後教育のアポリア―権力なき教育はありうるか

 どうです、<愛国心><伝統文化><道徳><宗教心>、教育の内容に、こんなあやしげな言葉が紛れ込んでき始めたら、用心するに越したことはない。これらの言葉が持つ胡散臭い含意を、この本は明晰に解き明かしてくれます。是非ご一読を。
 なお、教育基本法について簡潔な情報が必要な方は、フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』の「教育基本法」が参考になります。特に教育基本法改正問題に詳しい。