武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 桂川潤さんの装丁展―印象記


 本の装丁の展覧会に行ってきた。一人の装丁者の本だけを集めて展示するという珍しい展示だった。本を著者や内容で括るのではなく、装丁者を主人公にして眺めるとどうなるか、興味津々で出かけた。第一印象から言うと、並んでいる本がどことなく似ていて、血を分けた兄弟というか、遠くない親戚みたいな、不思議な類縁性を感じた。
 本の顔つきに共通したものを感じるのだが、一冊一冊違う本なので、共通項を言葉にし難い、知的に洗練された上品な味わいとでも言いたくなるような、洒落た感じのする印象を全体から受けた。本が教養の王座についていた頃の古き良き時代の名残りのようなものも感じた。こういう装丁を施して貰った著者はきっと嬉しいだろうという気がした。読んだことのある本もあったが、読みたい本がいっぱいみつかった。
 住宅街の一角にある学習塾の教室を連休を利用して展示会場にした、小さなアットホームな展覧会場、訪れて来る人がみな本好きらしく、どなたも嬉しそうに本を手にとって静かに鑑賞なさっていた。一冊ずつ順番に本の作りを矯めつ眇めつして行くと時の経つのを忘れるという何とも楽しい展覧会だった。 (上の画像が、装丁展の入り口「さつき書房」という表示が洒落ている)
 装丁が気に入らないと買う気が起きないことがあり、ビジネスの面から見ると装丁は極めて重要なことは分かっているつもりだったが、紙とインクとテキストでできている本が、装丁という仕事を通してはじめて本の形になるということなど、日頃気にしない角度から改めて本を見つめ直すいい機会となった。別の装丁者の展示も見てみたい気がした。
 展示してあったのは全部でちょうど100点、7つのブロックに分けて展示してあり、装丁に焦点を絞った企画の意図が分かって興味深かった。装丁者を主人公にするとこういう分け方になるのかと感心した。そのブロックというのは、次のような分け方。

①初期の装丁―4点
②文字が主役の装丁―20点(思想、哲学、評論など)
③イメージが主役の装丁―22点(小説、随筆、芸術など)
④写真が主役の装丁―18点(ノンフィクション、評伝、歴史など)
イラストレーターが主役の装丁―17点
⑥挿画まで担当した装丁―6点
⑥子ども向けの本の装丁―13点

 展示してある本を展示台から持ち上げて手にとると、全ての本に装丁者のコメントを書いた葉書の大きさの解説が付されていた。本の内容にかかわる装丁者の意図が分かり、何とも入念な展示方法が特に気に入った。短時間で著者の文章を読み解き、その内容にふさわしい本の顔つきをデザインする仕事の、大変さというか重要性というか、いろんな意味で想像していた以上に興味深い仕事だと言うことに気づかされた。ゴールデンウィークを利用した、たった2日間のミニ展覧会だったが、二日間で終わるのが惜しい気がした。
 なお、展示にちかい内容で桂川さんのサイトが公開されているので、この展覧会を見たかったという方は、以下のURLをクリックしてみてほしい。装丁という仕事に対する桂川さんのポリシーが分かります。サイトのデザインがステキです。
http://www.asahi-net.or.jp/~pd4j-ktrg/index.html