武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 朝のワンプレート(4)


 食文化の研究者・石毛直道氏の「食卓文明論」には、家庭における食の営みを、主要な2場面に分け、<台所>をステージとする営みと、<食卓>をステージとする営みの、二つのステージからとらえかえそうという試みが紹介されていた。
 台所における営みには、食材の蒐集と保管に関わる側面とその調理技術に関わる側面がある。一方、食卓における営みには、家族の生活スタイルが関わり、食の精神的な側面が反映する。
 後者の食卓やダイニングテーブルなどの配膳方法に焦点をあてた、比較的新しい食文化論的アプローチが、面白い成果を上げていて参考になる。その1冊、「ちゃぶ台の昭和」という本を読んでいて、昭和15年の婦人雑誌の図録が興味深かったので右に引用させてもらおう。
 明治以降から広まり始めたちゃぶ台ではなく、銘々膳のスタイルであるが、その献立のシンプルさに目を瞠った。花嫁講座の資料として掲げられいるものなので、当時の日常における標準的な献立なのだろう。冷蔵庫がなかった時代、野菜は漬け物で食べるか、煮物か和え物程度しかなかったのが実状、ほとんどのカロリーをご飯をお代わりすることで得ていた時代だったのだ。
 さて、食卓文化の視点から見ると、銘々膳は個人、ちゃぶ台やテーブルは座るか椅子にかけるかの違いはあっても、家族の集合を前提にしてしている点では同じ。この国では、古代から明治まで、延々と銘々善の時代が長かったと言うことは、とても興味深い。
 私が提案しているワンプレート朝食は、長い伝統をもつ銘々膳につながる食卓スタイルになるという面白いことに気がした。

 前置きはこれくらいにして、朝の献立を紹介してゆこう。



3月某日の朝食(上) ・ワカメスープ(ネギの芯、油揚げ、ワカメ、干し椎茸、春雨)・ご飯・ウルイのおひたし・人参の温野菜・春菊のおひたし・蕪の酢漬け・オクラの温野菜・蕗の旨煮・青梗菜のおひたし・椎茸の旨煮・白菜キムチ・プレーンオムレツ・画像にはないがコーヒー入りホット牛乳


3月某日の朝食(上) ・ワカメスープ(ネギ、干し椎茸、春雨、切り干しダイコン)・ご飯・ブロッコリーの温野菜・蕗の旨煮・菜の花のおひたし・白菜キムチ・ほうれん草のおひたし・蕪の酢漬け・椎茸の旨煮・ラッキョウの甘酢漬け・蕗の葉の味噌炒め・プレーンオムレツ・コーヒー入りホット牛乳


 野菜を混ぜ合わせないで単品で食べると、個々の野菜の味が際立つ。和えたりかけたりする調味液を工夫すると、シンプルで奥深い野菜の味のアリアが愉しめる。少量ずつ味わい分けると、食の悦びがこんこんと湧き上がって飽きない。ただし、化学調味料(最近では<うまみ調味料>と言うらしいが同じもの)が混ざると、繊細な野菜独特の味が壊れてしまうのでご注意を。調味液はあくまでも伴奏、味の主役はあくまでも食材であろう。