武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『美味求真1巻復刻版』木下謙次郎著(五月書房1973/7/5)


 まず、著者である木下謙次郎なる人物について、ウィキペディアによると「1869年(明治2年)に大分県に生まれる。1892年(明治25年)東京法学院(現中央大学)卒業。 政治家を志し、貴族院議員、衆議院議員として当選9回。この間、所属政党は、国民党、立憲同志会・憲政会、立憲政友会政友本党などにめまぐるしく移り変わり、政界の策士と呼ばれた。また、関東州の民政を統括する関東庁の長官である関東長官を1927年(昭和2年)12月17日から1929年(昭和4年)8月17日まで務めている。」とある。
 そして、本書「美味求真」については「1925年(大正14年)1月に啓成社から『美味求真』を発行。この書は日本初の食を主題にした随筆であるとされ、3月までに50版を重ねるベストセラーとなった。また、昭和初期にかけては、『続美味求真』(1937年)、『続々美味求真』(1940年)の2冊の続編も刊行された。」となっている。
 簡潔で良く整理された説明であり、付け加えることは何もないが、最近では2010年のブルータス7月号で、美食特集のトップで紹介されたりしている、知る人ぞ知る昔のカリスマ的食通である。
 本書自体は、漢文の素養豊かな文化人だったらしく、漢字を多用した文語体で、漢詩や漢文の引用が随所に見られる、中華料理への憧憬と見識に満ちた重厚な食随筆。明治生まれの食通ともなると、軽薄短小を自認することの多い昭和の食通とは随分違う気がした。
 なかなか手にする機会もないと思うので、煩瑣だがその1巻目の目次をすべて引用しておこう。


緒言 (北里柴三郎
第一章 美味の真
第二章 人類と食的関係
 第一節 人間生活の中心は食にあり
 第二節 食的遊蕩気分
 第三節 火食の起り 

第三章 料理の通則
 總論
 第一節 時ならざれば食はず
  第一項 食品のシュンを知るべし
  第二項 産地と性味の関係及び体の部位に就ての味の異同
  第三項 品質の鑑別に就ての注意
 第二節 割く正しからざれば食はず
 第三節 其の醤を得ざれば食はず
第四章 各國料理の概観
 第一節 西洋、支那、日本及び印度料理(味の数、食器及食事の度数)
 第二節 各料理の取扱ひ方
 第三節 各料理の特質
 第四節 茶屋風會席料理に就て
 第五節 日木料理に就ての苦情
 第六節 本邦の食物の変遷
  藤原時代
  北條時代
  室町時代
  織田、豊臣時代
  江戸時代 
  明治、大正時代 
 第七節 我國料理人及び流派(附、四條流、大草流の古風料理)
第五章 栄養學研究(附、支那王朝時代の樗範食) 
 第一節 栄養學の範囲 
 第二節 多食か小食か、菜食か肉食か 
 第三節 國立栄養研究所の模範食 
 第四節 支那王朝時代食物調理に関する官制及び其の模範食 
第六章 善食類
 第一節 河豚
 第二節 鶏
  第一項 鶏の由来
  第二項 鶏の種類
  第三項 鶏料理
 第三節 亀
 第四節 鼈(すっぽん)
  第一項 前書き、鼈の名産地 安心院
  第二項 スッポン
  第三項 鼈の漁法
  第四項 鼈の鑑別
  第五項 鼈の割き方
  第六項 鼈の煮方
  第七項 鼈の養殖
 第五節 人魚及び山椒魚
第七章 悪食篇
 總論
 第一節 虫類中の奇味
 第二節 虫類中の美味
 第三節 飛翔類の奇昧(但し學問上の分類によらず)
 第四節 獣類中の珍味
 第五節 土食及び木食
 第六節 動物の陰茎及び胞衣食(附、人肉食)
第八章 魚類篇
 第一節 我國と魚族の関係
  第一項 養魚の由来
  第二項 養魚と味
 第二節 鮎
  第一項 鮎の分布
  第二項 鮎の生涯
  第三項 鮎の養殖
  第四項 鮎の漁法
  第五項 鮎料理
 第三節 うなぎ
  第一項 鰻の分布
  第二項 鰻の生活
  第三項 鰻にからまる疑問
  第四項 鰻の品類
  第五項 鰻のシュン
  第六項 鰻料理
  第七項 鰻の漁法
  第ハ項 鰻の養殖
 第四診 鰹
  第一項 鰹の習性
  第二項 鰹の漁法
  第三項 鰹料理
  第四項 鯉の養殖
 第五節 鰍
  第一項 漁法
  第二項 鮒料理
 第六節 川魚の色々
 第七節 鯛
 第八節 蟹
 第九節 海魚の色々
あとがき(木下幹一)