武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 猪谷六合雄の生涯と文章(その1)

 明治生まれの今なお名前が残る人には、とんでもなく面白い人物が多いが、この国のスキーとジャンプの草創期を生きた猪谷六合雄なる人物も、傑出した明治の男、自然とともに生きた自然人、自由闊達に世間を気にせずに生きた自由人、人生をスキーに捧げた超スキーフリーク、達意の文章を書いた文章家、住みたいところに住み行きたい所に行ってしまう天性の放浪者、自分で作り上げたキャンピングカーで暮らした初代車上生活者などなど、多様な側面を持ち、簡単には把握しきれない。
 幸いにも自分がやっていることがよく分かっていて、表情豊かな達意の文章を書く才能を併せ持っていたので、自分の生き様を克明に書き残してくれている。写真の趣味が高じて暗室とともに暮らしていたほどなので、残された映像も少なくない。ある程度、彼がどのような生き方をしていたのか、今でも辿ることが出来る。
 何よりも文章が素晴らしいので、入手可能なものを簡単に整理してみよう。まず、出版物調べの第一歩、国会図書館で著者名から検索してみると、以下のような結果が出てきた。引用しよう。

1. 赤城画帖 / 高村光太郎[他]. 奄星閣, 1956
2. 猪谷六合雄スタイル / 〔猪谷六合雄〕[他]. INAX出版, 2001.6. (INAX booklet)
3. 猪谷六合雄選集.ベースボール・マガジン社, 1985.4
4. 群馬文学全集. 第20巻 / 伊藤信吉.群馬県土屋文明記念文学館, 2003.3
5. 現代教養全集. 第22 / 臼井吉見.筑摩書房, 1960
6. 現代日本記録全集. 第13.筑摩書房, 1970
7. 初心者からのパラレルスキー / 猪谷六合雄,渡辺政子.冬樹社, 1967
8. 人生読本. 2.筑摩書房, 1973
9. スキー講座. 第1巻 / 猪谷六合雄,野崎彊,近藤等.白水社, 1955
10. スキー講座. 第2巻 / 猪谷六合雄,野崎彊,近藤等.白水社, 1955
11. スキー講座. 第3巻 / 猪谷六合雄,野崎彊,近藤等.白水社, 1955
12. スキー・スケート / 猪谷六合雄,両角政人[他].ポプラ社, 昭和35.(少年少女体育全集 ; 13)
13. スキーとともに / 猪谷六合雄.筑摩書房, 昭和26.(中学生全集 ; 67)
14. スキーはパラレルから / 猪谷六合雄.朋文堂, 1958
15. 生活の随筆. 第11.筑摩書房, 1962
16. パラレルへの近道 / 猪谷六合雄,猪谷千春.日刊スポーツ新聞社, 1959
17. 雪に生きた八十年 / 猪谷六合雄.実業之日本社, 1972
18. 雪に生きる. 上 / 猪谷六合雄.創元社, 1952. -- (創元文庫 ; A 第70)
19. 雪に生きる. 上 / 猪谷六合雄.山と渓谷社, 1955. -- (山渓山岳新書)
20. 雪に生きる. 上巻 / 猪谷六合雄.角川書店, 1955. -- (角川文庫)

 この中から猪谷が書いた文章で、彼の生き方を知る手がかりになりそうな作品を選び出すと、
①3番の<猪谷六合雄選集>、
②何回か版を改めて出版されている<雪に生きる>、
③その続編とも言うべき<雪に生きた八十年>、
これらの3点となるが、内容をチェックしてみると、選集の内容は、<雪に生きる>のほぼ全部と、<雪に生きた八十年>の大半を掲載しているが、それらのどちらにも入っていない文章も追加されているので、これらの3点で不足を補い合えば、猪谷が自らを文章化した部分をほぼカバーできることがわかる。
 ベースになる<猪谷六合雄選集>は、今ではなかなか入手しにくい限定本なので、次にその目次を全部引用しておこう。4巻に<雪に生きた八十年>にものっていない雑誌などに掲載された文章が多いのが目を引く。

《猪谷六合雄選集第一巻》
[赤城山時代]
1 スキー揺藍時代
2 スキー行脚
3 スキージャンプ人門
4 スキージャンプ練習時代
5 二つのジャンプ大会
6 赤城山を出る
7 北海道へ渡る
8 阿寒付近
9 摩周湖
[千島時代]
1 千島へ渡る
2 古丹消へ移住する
3 畑を作る
4 島の魚
5 鼠の話
6 二年目の冬
7 靴下の表
8 島の思い出
9 老漁夫の死
10 小屋の火事
11 滝の下の小屋
12 膝関節の半脱臼
13 千島を去る

《猪谷六合雄選集第二巻》
[再び赤城山時代]
1 再び赤城山
2 湖に親しむ
3 万座、白馬
4 山歩きとゾロ
5 闇夜の山下り
6 雷
7 ヒマラヤ入りの計画
8 最後の冬
9 千春入学
11 湖で溺れた人
[乗鞍時代]
1 番所へ移る
2 野麦ヘ
3 小屋を作る
4 第二の冬
5 乗鞍とスキー
6 ゲレンデの藪払い
7 石割り
8 大町の大会
9 乗鞍のスキー春夏秋冬
10 新コース
11 頂上のゲレンデ化
12 盗人君を泊める
13 日光の大会
14 最後のシーズン
15 子供の躾
16 私と鏡
17 スキーに生きる
[山小屋その他]
1 私の山小屋について
2 小屋二つ
3 薪切り台
4 着物の順序
5 靴下の表の説明

《猪谷六合雄選集第三巻》
[戦中戦後の生活]
1 番所から青森ヘ
2 要目時代
3 敗戦前後
[志賀高原時代]
1 三度目の赤城山時代
2 志賀高原へ移る
3 スキー合宿
[思い出すことなど]
1 思い出
2 人間、この不思議なもの
3 生活・歳月の足あと

《猪谷六合雄選集第四巻》
[老いと人生]
1 物の見方、考え方
2 人生と幸福
3 人問の生甲斐とは
4 天寿と「安楽死
5 人命と生命
6 八十三歳の心境
7 老境と人の厚意の有難さ
8 仕合わせ老人の仲間か
[車との生活]
1 自動車学校へ行く
2 車に住む
3 九州ヘ
4 北海道行き
5 私の車はかたつむり
6 宿の問題
7 イタリー行き
8 小さな贅沢
9 車断片
10 蚊をとって事故を起こす
[いま考えることども]
1 昔のスキーと明日のスキー
2 人間牧場
3 目(スケート)
4 舟(スカール 丸木舟)(自転車)
5 子供とスキー
6 人類のゆくえ

 別巻は、全ページ猪谷六合雄の写真集、猪谷ファミリーのアルバムをベースにした、この国の明治大正のスキーの記録として、貴重な画像が多い。達意の文章と合わせると、猪谷六合雄の人生を蘇らせるのに大変都合がいいのだが、入手しにくいのが残念。