武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『アルゲリッチ・コレクション1(8CD)』 DG Collectors Edition アルゲリッチ・ソロ・ピアノ・レコーディングス


 このところアルゲリッチの8枚のCDをウォークマンに取り込み、散歩の折などに聴きながら、驚異的な鍵さばきと溢れんばかりの絢爛たる音響の世界を楽しんでいる。私は彼女の演奏から得も言われぬエロチシズムの迸りを感じる。
 アルゲリッチの演奏を聴いていると、所々、<疾走する>などという表現を通り越して、過激に加速し、音響の豪華な噴水が歓喜の余り吹きこぼれるようなところがあり、思わず息を呑んでしまう。 緩やかで静謐な楽章の透明感も素晴らしい。繊細な絹糸のように細い音の流れを通して、遙かな深淵の底からの響きに耳を澄ますような瞬間がある。緩急の対比も鮮やかな曲全体の構成も素晴らしい。「天才だな」という呟きが自然に湧いてきて何の不思議も感じない。
 良い音楽表現とは、どうしても中断を受け入れがたい音の流れだと言った人がいるが、アルゲリッチの高揚してゆく演奏シーンなど、中断するなど断じて許せないと思えるほど、圧倒的な音の奔流となってこちらの聴覚を押し流してくれて何とも言えない快感を味わえる。高性能バイクでタイトなコーナーをきちんと曲り終えてフル加速に移行する瞬間にでも例えようか、背骨の辺りにGがかかるあの感じ。
 60年代から80年代までの長い期間の録音集成なので、演奏家としての成長が感じ取れるのも面白い。今ならまだ驚くほど格安で手に入るので、ピアノがお好きな方には是非お勧めしたい。最後に8枚の曲目リストを引用しておこう。

CD1
ショパンスケルツォ第3番嬰ハ短調
ブラームス:2つのラプソディ第1番ロ短調
ブラームス:2つのラプソディ第2番ト短調
プロコフィエフトッカータ ハ長調
ラヴェル:水の戯れ
ショパン舟歌 嬰ヘ長調
・リスト:ハンガリー狂詩曲第6番変ニ長調
 録音:1960年(ステレオ)

CD2
ショパン:・ピアノ・ソナタ第3番ロ短調 op.58
ポロネーズ第7番『幻想』
ポロネーズ第6番『英雄』
マズルカ第36番 op.59-1
マズルカ第37番 op.59-2
マズルカ第38番 op.59-3
 録音:1967年(ステレオ)

CD3
・リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調
シューマン:ピアノ・ソナタ第2番 op.22
 録音:1971年(ステレオ)

CD4
ショパン:・ピアノ・ソナタ第2番ロ短調 op.35『葬送行進曲付き』
・アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ op.22
スケルツォ第2番変ロ短調 op.31
 録音:1974年(ステレオ)

CD5
ラヴェル:・夜のガスパール
ソナチネ
・高雅にして感傷的なワルツ
 録音:1974年(ステレオ)

CD6
ショパン:・24の前奏曲 op.28
前奏曲嬰ハ短調 op.45
前奏曲変イ長調(遺作)
 録音:1977年(ステレオ)

CD7
J.S.バッハトッカータ BWV.911
・パルティータ第2番 BWV.826
・イギリス組曲第2番 BWV.807
 録音:1979年(ステレオ)

CD8
シューマン:・子供の情景 op.16
クライスレリアーナ op.15
 録音:1983年(デジタル)