武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 堀江謙一さんのヨット単独無寄航世界一周を思い出しながら歩いた散歩(写真は公園で見つけた面白い形をした花、40本ほどのおしべが花びらからはみ出るほど長いビヨウヤナギ)

toumeioj32005-06-19

 8時ごろから南に向かって歩き始める。住宅街の外側の整備された歩道で軽いウォーミングアップをすませ、県道に出る辺りからスピードを上げる。県道脇も立派な歩道が整備されている自転車と歩行者とにラインで分けられた道、車道側が自転車だが夜ここを歩くと無灯火の自転車がスピードを出して走るので怖い道。この通信基地脇を抜けると、広大な公園に入る。
 ipodの曲を内田光子シューベルトピアノソナタに切り替え、緑あふれかえる公園内の快適な散歩が始まる。日曜日なのでたくさんの市民が、身体を動かしている。ジョギングする人、散歩する人、サッカーをしているグループ、バスケットボールをしている少年達、思い思いに日曜日を楽しんでいる。のんびり歩いていて、ふと堀江謙一さんのことを思い出した。今月に入って世界で二人目の東西両周りヨット無寄航世界一周を達成したというニュースが入ってきた。素晴らしい偉業だと思う。
 同時代のこの国の偉大な冒険家、植村直己に並ぶ人。66歳。250日。5万km。単独無寄航。全く凄い。スーパーマン、超人。ただ拍手あるのみ。
 ヨット単独航海にかかわる不思議な話を思い出した。場所は、大西洋か太平洋かインド洋か忘れた。とにかく広大な海洋の真っ只中。時刻は深夜。突然にすべての風という風がぱったりとなくなってしまう。毛筋ほどの風さえなくなり、ヨットは全く動けなくなってしまう。世界中の風がなくなってしまったように、海面に波一つなく海面は平らな1枚の板のように平らにどこまでも広がっている。空はまさに降るような満点の星。物音ひとつ聞こえない。沈黙の世界
 そんな時、海面はあまりに平らなために巨大な1枚の磨き上げられた鏡のようになるのだと言う。鏡に浮かぶのは一艘の小型ヨット。やがて、ヨット乗りは、不思議なことに気付く、海面が満点の星空に変貌していることに。見上げれば頭上に砂金をぶちまけたような星空、下を見れば海面に写る深い深い水底の星空の世界。海面の星空が余りに深く見えるのでヨットはちょうど巨大な星空の球体の真ん中に浮かんでいるような錯覚に陥ると言う。全天星空の360度の球体の中心に浮かぶ小型ヨットの無音の孤独感。一生に一度でいい、そんな光景に出会いたいと思いませんか。
 堀江さんの冒険のニュースを聞くと、私は、必ずこの風のない夜のヨットと星空の話を思い出す。堀江さんはこんな夜を何度も体験したのかな。
 そんなことなどを日に照らされて熱くなった頭に思い描きながら、2時間ほど歩いて帰宅、熱いシャワーと冷たいシャワーを交互に浴びていると、1週間の疲れが全身から落ちて排水溝に流れ込んでいくような気がした。