武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『アナザー・ワールド』 ちあきなおみ 発売OMCA

toumeioj32006-07-25

 1992年に歌手活動を停止してしまい、よほどの機会がなければテレビなどでは目にすることのなくなった歌唱力では群をぬく存在であった「ちあきなおみ」。そのアナザー・ワールドというCDを聴いて驚いた。
 以前に、ポルトガルに旅行した折、リスボンの夜だったと思うがレストランで旅行客向けのショーでファドを聴いた。マリア・ロドリゲスの歌声を聞いたときも同じことを感じたが、ポルトガル語できくファドは、この国の演歌のような節回しをきかせる暗い民衆の唄という感じがしたが、今ひとつ、歌としての魅力を感じ取れず、歯痒い思いがぬぐえなかった。
 今回、CDアナザー・ワールドの1枚目のファドを歌う「ちあきなおみ」の歌声を聴いて、ファドの魅力を再発見、彼女の歌唱力にあらためて脱帽した。染み入るようなしっとりとした歌声が、じっくりとファドをこの国の言葉と「ちあきなおみ」のコンセプトで、歌い上げている。聴いているとこちらの心にじんわりと霧のような情緒がわきあがる。透明感のある歌声なので、悲しみが透き通り、悲しみの彼方が透き通るような感じといったらいいか。
 ちあきなおみファンサイトにこのCDの解説が出ていた。それによると「ビクター時代に発表した3枚のアルバムから洋楽をカバーしたアルバム2枚『それぞれのテーブル』『THREE HUNDREDS CLUB』『待夢(たいむ)』を完全収録。また、ボーナストラックとして邦楽カバー「星影の小径」「港が見える丘」を2曲追加したファン待望の編集盤。」。2枚組みのCDの中で、『待夢(たいむ)』の部分が多分1枚目のファドを歌ったもののよう。
 ファドの部分は全部で9曲、9曲全部いいが、特にはじめの<秘恋(ひれん)><黄昏><嘆き>の3曲は背筋が寒くなるほど情緒たっぷり、わたしは何度も聞き返して、斜陽と退廃の香りがただようリスボンの夜を思い出している。まだ入手可能なCDなので、唄が好きな人、是非聞いてみて欲しい。
 最後に、このCDに収録されている曲目を引用しておこう。

『待夢(たいむ)』・秘恋(ひれん) ・黄昏 ・嘆き ・酔いどれ船 ・霧笛 ・酒ともだち ・ひとり芝居 ・愚痴 ・始発・・・まで

『それぞれのテーブル』・それぞれのテーブル ・女はアクトレス ・18才の彼 ・雨に寄りそって(悲しきマリー) ・すり切れたレコード ・私は愛されるのが好き ・たそがれ仕度(しのび泣き) ・昔かたぎの恋 ・愛のために死す

『THREE HUNDREDS CLUB』・恋に戯れ ・追憶 ・横顔 ・合鍵 ・朝な夕な ・恋は罪ね ・夜に踊れば ・日曜日は風 ・た・め・い・き ・夜更けの天使 ・愛の形見 ・悪い夢

・星影の小径 ・港が見える丘