武蔵野日和下駄

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 『カルロ・クリヴェッリ〜マルケに埋もれた祭壇画の詩人〜』 石井曉子著 (発行講談社出版サービスセンター2008/08/31)

 95年に出版された「カルロ・クリヴェッリ画集 (ピナコテーカ・トレヴィル・シリーズ)」に続く、この国で発行されたカルロ・クリヴェッリ関連の2冊目の本が本書。クリヴェッリというイタリア・ルネサンスの初期を飾る祭壇画の鬼才が、次第に多くの人に注目されるようになってきた。
 以前にロンドンのナショナル・ギャラリーでクリヴェッリの原画に出会いその圧倒的な表現力に時の経つのも忘れて呆然と見入っていたことを思い出した。この画家が描く聖母の高貴さには、人を拒絶する冷たいまでの高貴な輝きがあり、見る者にエロチックな戦慄を喚起する不思議な力がある。
 この本は、著者がクリヴェッリの祭壇画を求めて旅行した旅の随想と、簡潔なクリヴェッリの評伝、そして貴重な資料の付録によって構成されている。多くのことが謎に包まれたままの資料も少ない画家なので、付録の年譜や作品一覧、参考文献は、愛好者としては本当に嬉しい貴重な情報源。
 クリヴェッリが描く聖母像の強烈な吸引力、幼子キリストや天使達の冷笑を含んだような流し目、聖人達の屈折した悪意すら感じさせる表情、克明に描かれた色鮮やかな細部への偏執、いずれもが一度見たら忘れられない奇妙な存在感を持ってせまってくる。美しさの余り、ナポレオンの侵略以降、全世界に分散してしまった事情も良く分かる。部分も全体も妖しいほどに美しい。クリヴェッリの絵画表現の美学的な分析は、今後さらに蓄積されて多くのことが語られるようになるに違いない。 (下の画像は、クリベッリの傑作、祭壇画の一部として描かれたマグダラのマリア、氷のように冷ややかな表情と奇妙に伸びた指が醸し出す硬質なエロチシズムをご覧あれ)

 目次を引用しておこう。

序―漂流の画家カルロ・クリヴェッリ
1.カルロ・クリヴェッリヘの旅
 1)2000年10月―ロンドン
 2)2001年冬―東京
 3)2001年6月―マルケ州/アスコリ・ピチェーノ/モンテフィオ・レ・デ・ラーゾ/マッサ・フェルマー
 4)2002年6月―フィレンツエ
 5)2006年春―マルケ州再訪/フェルモ「鷲と獅子展」/モンテフィオーレ・デ・ラーゾ/アスコリ・ピチェーノ/フェルモ/サン・エルピディオ・ア・マーレ/モンテ・サン・マルティー
2.カルロ・クリヴェッリ〜マルケに埋もれた祭壇画の詩人〜
刊行に寄せて―クリヴェッリの名画を堀り起こす―塚本博
あとがき
付録―カルロ・クリヴェッリ年譜
   掲載作品解説
   カルロ・クリヴェッリ作品一覧
   用語・人名解説
   参考文献

 カルロ・クリヴェッリについて、今現在の時点で手に入る、唯一の入門書としてお勧め。少ないながら挿入されている画像もなかなか美しい。
 次のサイトでクリベッリの絵が見られます。
http://www.wga.hu/frames-e.html?/html/c/crivelli/carlo/
 以下のブログにクリベッリに対するこだわりの記事がアップされています。
http://lapis.blog.so-net.ne.jp/2006-02-14
http://blog.goo.ne.jp/crivelli/e/d0b0aac731efaf6a2509e94177113d62
 クリベッリファンには、拘りの人種が多いことが良く分かります(苦笑)。


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