武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『子どもの昭和史少女マンガの世界Ⅰ・Ⅱ 』 構成米沢嘉博 (発行平凡社1991/7/20〜10/17)

 視覚的効果を最もうまく生かした本に平凡社の「別冊太陽」がある。単行本にすると重苦しい感じになりかねない造本とテーマを、ソフトカバーの雑誌形態でかわして、独自の出版形態を発達させた似たような企画に「別冊宝島」があるが、いずれもこれまで随分とお世話になった。
 この「別冊太陽」の数あるヒットシリーズの中でも、昭和の歴史を調べるのに欠かせないのが<子どもの昭和史>シリーズ、現在までのところ14点発行されており素晴らしいシリーズとなっている。昭和をノスタルジックに回想するとき、これほど手頃で効果的なツールは他にないのではないか。
 以下に、そのシリーズを列挙してみよう。古いものなので発行元では絶版になっているが、古本として入手するのは、今のところそれほど難しくない。可能なら全巻揃えて楽しみたい。

子どもの昭和史/昭和10年〜昭和20年
子どもの昭和史/昭和20年〜昭和35年
子どもの昭和史/名作コミック集 昭和元年〜昭和20年 
子どもの昭和史/昭和35年〜昭和48年
子どもの昭和史/少女マンガの世界1 昭和20年〜昭和37年
子どもの昭和史/少女マンガの世界2 昭和38年〜昭和64年
子どもの昭和史/童謡・唱歌・童画100
子どもの昭和史/少年マンガの世界1 昭和20年〜昭和35年
子どもの昭和史/少年マンガの世界2 昭和35年〜昭和64年
子どもの昭和史/手塚治虫マンガ大全
子どもの昭和史/横山光輝マンガ大全
子どもの昭和史/おまけとふろく大図鑑
子どもの昭和史/新世紀密林大画報
子どもの昭和史/ヒーロー・ヒロインの映画史


 今回取り上げるのは、そのなかの「少女マンガの世界」と題された2冊、少年マンガほどには愛読してこなかったので少し疎遠な世界ではあるが、近所で交換し合ったりして、子どもなりの相互乗り入れというか越境というか、同時代性の枠のなかである程度は見覚えのある世界なので、ページをめくってゆくうちに思わず懐かしさがこみ上げてきた。
 この2冊の特徴はといえば、やはり今は亡き少女マンガ界の影の仕掛人米沢嘉博さんの全面協力による紙面構成だろう。見開き2ページに配置された巧妙な表題と副題、短文ながら簡潔で分かりやすい解説文のほとんどは、米沢さんの手になるものに違いない。少女マンガへの偏りのすくない目配りが行き届いて、抜けていたり脱落していたりする記憶と知識の足りない部分を、しっかりカバーしてくれる。
 少女マンガファンならずとも、この2冊に目を通していくと、広大で奥行きのある表現領域が、確固として昭和という時代に存在したということを、確信するに違いない。美しく楽しい心躍る世界として、確かな文化圏を形成していることに納得できるに違いない。機会があったら、是非手にとってじっくりとご覧になることをお勧めしたい。
 1巻目は、昭和20年から37年までの、<戦後世界>の枠組みがまだ色濃く残り、<戦後世界>が逞しくエネルギッシュに成長を続けていた時代、男の子だった私にっても懐かしい沢山の記憶を蘇らせてくれる画像がふんだんに紹介されている。月刊雑誌華やかなりし頃としてまとめてある。
 各ページの見出しが、興味深いまとめ方をしているので、目次を詳しく紹介しよう。これらのフレーズのもとに、どんな少女マンガの画像が掲載されているかは、実物にあたってお確かめ願いたい。資料的価値の非常に高い絵満載です。

子どもの昭和史 少女マンガの世界Ⅰ 昭和20年〜37年
  少女マンガの系譜−華やかな誕生と熟成−米沢嘉博
少女マンガ前史(昭和20年〜27年)
 戦後少女雑誌の開幕−少女たちの戦後と復興
 大家たちの”少女ドラマ”−娯楽と物語の少女小説
 抒情画と童画の邂逅−少女雑誌を支える人気挿画画家
 絵物語の短い時代−過渡期のヴィジュアルストーリー
  夢見る装飾−少女マンガ前史とその意味−荒俣宏
 ストーリーマンガ以前の漫画群−笑いを受け持っていたコマ漫画
 お姫様繁盛記−まずのヒットは姫物マンガ
 ストーリーコママンガの動き−マンガにおける物語の萌芽
 戦後の少女ファッション−ひまわり、それいゆ、スタイル画
少女マンガ黎明期(昭和28年〜32年)
 視覚的娯楽雑誌への道−新雑誌と大判化のもたらした未来
 あこがれの少女スター−口絵を彩る、かわゆい少女たち
 少女スターとマンガ−マンガにおけるスターたち
 手塚治虫−華麗なる少女漫画への招待・そこに宝塚歌劇と映画があった
 ファンタジーと伝奇ロマン−少女物語マンガの最初の世界
 少女たちの通俗ドラマ−少女小説から少女マンガへ
 愛すべき少女たち−生活マンガのキャラクターたち
 うしおそうじ、纏綿たる情緒−江戸趣味と活動写真の匂い
 世界名作・少女マンガ−親と子の健康優良作品を求めて
 雑誌付録マンガ−新時代の豪華な新企画
月刊雑誌黄金時代(昭和33年〜37年)
 わたなべまさこ、大衆のロマン−日本的少女メロドラマの魅力
 牧美也子、たおやかなる少女たち−かげりある少女の心の行方
  「あの頃……」−牧美也子
 水野英子、銀幕のロマネスク−虚構世界に秘められた想い
 上田とし、ハイセンスなコメディー−かわいさと笑いとスタイルと
 今村洋子現代っ子の群像−明るくかわいくおてんばに
 ゆかいで明るい少女たち−ギャグとコメディーとリアリズムと
 高橋真琴、西洋的なデコレーション−抒情画と絵画の少女趣味
 幸せを追い求めて−母と少女の生きる道
 バレエに秘められた想い−あこがれのバレリーナマンガ
 密室の少女幻想−花と涙と瞳と夢と
 てばてつや、たくましき少女たち−生活のリアルなリズム
 実力派たちの少女マンガ−永島慎二つのだじろう赤塚不二夫
 生きていく少女たち−少女の生活と貧乏と不幸と
 横山光輝、エンターテイナーの世界−ジャンルを超えた人気と活躍
 石森章太郎、さまざまな実験と実践−知的好奇心とロマンの香り
  U・マイア誕生−丸山昭
 松本あきら、マニアックな夢想−ロマン・ホラー、ファンタジーに誘われて
 あすなひろし、リリカルな抒情−言葉と絵とドラマのポエム
 とまどいの少女像−少女誌の男性作家たち
 揺籃期の自由さの中で−ホラー・SF・ファンタジー・時代・異色作
 魅惑のスーパーヒロイン−戦い、謎解く女の子たち
貸本少女マンガの世界(昭和25年〜42年)
 赤本から貸本へ−貸本マンガ初期の作家たち
 貸本少女マンガ短編集誌(上・下)−時代を作ったミニメディア
 母ものから友情、そして恋−貸本界最長シリーズ・ひまわりブック
 玉石混淆の少女マンガ世界−若木以外の出版社とその本
 巴里夫、日常の子どもたち−現実とドラマの間のてれ
  「貸本マンガ」の思い出−巴里夫
 矢代まさこ、「少女」の浮上−少女を追い求めて
 人気作家の個人シリーズ−学園、愛と涙、まごころ、スリラー
 コマの向こうに悲鳴が聞こえる!−貸本少女怪奇マンガ、恐怖の想像力
 新人たちのチャームな世界−新世代の登場と貸本の終焉
  新人マンガ家の登竜門だった若木書房−北村二郎
  密室の花園における少女幻想−少女マンガの表現にふれて−米沢嘉博
少女マンガ史年表/貸本少女マンガ年表


 2巻目は、子ども向け週刊誌の登場と、大人の世界の高度経済成長、昭和の大衆消費社会とともに、大量に生産され消費される社会システムの中で、少女マンガがどのように振舞っていったか、新しい時代とともに変貌してゆく少女マンガの世界が総括的にとらえられている。
 好評だった連載作品は時を経ずしてテレビアニマ化され、全国のお茶の間を沸かせるようになり、少女マンガは子ども世界をこえた国民的娯楽としてさらに読者を拡大していった。この巻では、そんな時代のマスメディアのなかで、地道に雑誌媒体で生産され消費されていった少女マンガの本当の裾野の広がりを俯瞰できるようになっている。
 多様化していった少女マンガ世界の一端を、まとめて閲覧できるようになったのは、この本のおかげかもしれない。この巻でも各ページの見出しのつけ方が抜群に面白いので、詳しく目次を引用する。あまり深く考えたものではないかもしれないが、軽いノリが高い的中率をあげていると思う。

子どもの昭和史 少女マンガの世界Ⅱ 昭和38年〜64年
  少女マンガの過去・現在・未来−前掲された後書きのように−米沢嘉博
週刊誌時代の幕開き(昭和38年〜42年)
 期待される新メディア像−週刊誌のオズオズとした始まり
 連続ドラマへの挑戦−ひきと泣きとのテクニック
 細川知栄子、オシャレなダイナミズム−けばけばしさの虚構性
 新時代の人気作家たち−細野みち子と北島洋子
 銀幕へのあこがれ(一)−ロマンチックコメディーの鐘は鳴る
 銀幕へのあこがれ(二)−ロマン・冒険・スペクタクル
 生きていく少女たち−女の子にとっての生きる意味
 闇の中の異形−怪奇マンガブームのあらまし
 合言葉はビクトリー−スポ根少女たちの戦い
 西谷祥子、目覚めの感覚−少女はときめき、つぶやき、主長する
  時代の中央線を歩け−西谷祥子
 恋するティーンエイジャー−タブコメの始動と定着
  三つの衝撃−ささやななえ
 りぼんカラーシリーズの世界−感動とボリュームの読み切り付録
戦後世代の登場(昭和43年〜47年)
 新たなる容器−新雑誌と別冊の許容量
 中里満智子、華麗なるスターター−愛とロジックの戦い
 大和和紀、ポップなフットワーク−少女によって世界は回る
 青池保子、衝撃的変容の体現−少女の夢と笑いの大ワープ
 神奈幸子、典型的コンセプト−恋と夢の青春学園にて
 阿部律子、あたたかさとやさしさ−ハートウォーミング・プレイ
 恋と愛の学園−講談社グループの作家たち
 一条ゆかり、主張するエンターテイナー−愛と叫びと悲しみと
 もりたじゅん、肉体のリアリズム−地上に降りてきた女たち
 弓月光、コメディーの頑張リズム−マジさとドジさのバランスゲーム
 のがみけい、多彩なるエンターテイメント−ロマンと笑いとシリアスと
 井出ちかえ、パワフルなサービス−ゴージャスな泥臭さ
 メッセージと表現と−りぼんコミックスの先鋭さ
 笑いは世界を支配する−土田よしことギャグとドタコメ
 忠津陽子、陽気なタラブルメーカー−少女の瞳にご用心
 池田理代子、思索する女たち−世界の中で生きること
 美内すずえ、ロマンへの誘惑−物語の冒険・その転末
 問いかける者たち−樹村みのり岡田史子矢代まさこ
 お姉様雑誌の進撃−成長する少女たちと共に
 芸能・GS・青春スター−アイドルから生まれたBF像
少女マンガ全盛期(昭和48年〜53年)
 個性を求める雑誌たち−70年代に向けてのひとつの答え
 萩尾望都、ロマンティックな変革者−連続する衝撃とその波及
 大島弓子、夢想のレトリック−少女少の異世界に包まれて
 竹宮恵子、意志と関係論−少年たちの時代
 山岸涼子、精神と肉体の夢−深きところに降りていくことの恐怖
  未曾有の時代−中島梓
 大矢ちき、化粧する画面−マニールの生み出すもの
 木原としえ、永遠なるロマン−感動的昔話は花びらの中
 ささやななえ、誠実なる探求者−リアルなることの重み
 山田ミネコ、ロマンのアラベスク−エキゾチックヘの扉
 和田慎ニ、ヒロイニックファンタジーの創造者−甦る神話と冒険活劇
 山本鈴美香、目覚める者たち−成艮する少なの神話
 庄司陽子、青春の十字軍−ガンバル少女たちと共に
 やさしさの風景−少女と子どもへのまなざし
 七〇年代・青春の情景−少女と少年の日常の中に
 ドラマの奔流−週刊誌最後の光芒
 物語のバリエーション−ストーリーの面白さに向けて
 美少年の季節−ホモセクシャルの虚構
 少女突然変異体−広がりの中での個性派たち
浸透と拡散と継承(昭和54年〜64年)
 氾濫する少女雑誌読−読者によるセグメント化の波
 少女の恋のかわいらしい夢想−おとめチックラブコメディー
 新時代のヒロインたち−アニメと雑誌の人気者
 若き実力者たち−文月今日子くらもちふさこ槇村さとる
 進化するSF少女マンガ−少女たちのィンナースペース
 やわらかさからの脱出−新たなるスタイルに向けて
 青春の暗き香り−つっぱり、SEX、はぐれ者
 笑いとシリアスのデフォルメ−ハチャメチャコメディーの展開
 八〇年代の予兆−浸透と拡散の中の新人たち
恋から始まる少女マンガの大冒険−少女マンガの表現にふれて−米沢嘉博
平成に読める昭和の少女マンガベスト百−選・米沢嘉博
少女マンガ史年表(昭和三九年〜六四年)−構成=杉田健一
少女誌一覧
特別付録/少女マンガ傑作原画展