武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

『本棚が見たい!シリーズ』 川本武、津藤文生、大橋弘本、野辺 律子編著 (発行ダイヤモンド社1996/06〜1998/02)

 知り合いのお宅を訪問した折など、案内された部屋に本棚があると、しばらくそちらの方に視線が吸い寄せられてしまい、しばし話題に集中できなくて困ることがある。その昔、国家による思想弾圧が厳しかったころ、官憲は取り締まり対象者の本棚に目を光らせ、被疑者の方は本棚から疑われそうな本を隠したりと、本棚をめぐる攻防が密やかに繰り広げられたと聞いたことがある。凄くよくわかる気がした。他人の本棚を覗くのには、何だか内臓部分を覗き見るような、隠微な楽しみがある。(チト大袈裟か笑)
 「本棚が見たい」のこのシリーズが、雑誌掲載時から評判を呼び、単行本化されても相当数の読者を獲得したのには、そんな楽しみを誰もが感じていたからに違いない。知らない人はどうでもいいが、知っている人の本棚が見られるならちょっと見てみたい。でも、本書を少し見ていくと分かることだが、写っているのは膨大な蔵書のほんの一部、本当に見たいものは写っていない。(当り前か)見せたくないものは、押入れの奥か畳んだ蒲団の間(苦笑)か他の場所にあるに違いないのだから・・・。
 だから、分かるのは書斎の雰囲気と言うか、見せてもかまわない本棚のほんの一端を見せてもらえるにすぎない。それでも、比較しながら見てゆくと、個性と言うか、癖と言うか、その人ごとに相当に本棚に違いがあることに吃驚(当り前か)、写真のサイズが、目を凝らせば背表紙の題字が読めるぎりぎりの写りなので、ついつい題字を読んでしまう。すると、意外にも分かってくることもあり、ああこの人はこういう本を読むのかと納得したり首を傾げたりして、ついつい本文の方も読まされてしまう。
 読み始めると、本文のインタビュー記事がなかなか読ませる。時間をかけて聞き取りをして、面白そうな部分だけをつないだのだろうが、誰もが自分の蔵書については大なり小なりの蘊蓄がないはずはなく、その人の一面を知る上でとても興味ある記事になっている。画像の本棚とインタビュー記事がセットになって好評を博したものにちがいない。私は、シリーズの3冊とも、とても楽しく読ませてもらった。
 それにしても、僅か10年ほど前のものなのに、すでに亡くなられた方が何人もいらっしゃるのには愕然となった。著名な方々は、日々、命を削るようにして生きていらっしゃるのかもしれない。どんな愛読書も、向こう側には一冊も持ってゆけないのが何とも辛い、せめて1冊だけでも何とかならないものかしら。
 シリーズ3冊の画像とそれぞれの目次を引用しておこう。

本棚が見たい!
筒井康隆の本棚/内藤陳の本棚/山田風太郎の本棚
荒俣宏の本棚/高村薫の本棚/村松友視の本棚
吉村昭の本棚/高橋克彦の本棚/畑正憲の本棚
和田勉の本棚/阿刀田高の本棚/ジェームス三木の本棚
安部譲二の本棚/山田太一の本棚/細川護熙の本棚
上之郷利昭の本棚/竹中労の本棚/日下公人の本棚
吉村作治の本棚/市川森一の本棚/夏目房之介の本棚
紀田順一郎の本棚/堀田力の本棚/秋元康の本棚


本棚がみたい!2
猪瀬直樹の本棚/野口悠紀雄の本棚/横尾忠則の本棚
高橋義夫の本棚/上野千鶴子の本棚/山根一眞の本棚
赤瀬川隼の本棚/景山民夫の本棚/胡桃沢耕史の本棚
田中小実昌の本棚/三枝成彰の本棚/安西水丸の本棚
泉麻人の本棚/井家上隆幸の本棚/志茂田景樹の本棚
豊田有恒の本棚/松岡正則の本棚/岡留安則の本棚
水野晴郎の本棚/森詠の本棚/板坂元の本棚
國弘正雄の本棚/山本七平の本棚/高野孟の本棚

本棚が見たい!3
橋本治の本棚/唐十郎の本棚/清水義範の本棚
桜井よしこの本棚/C・W・ニコルの本棚/有田芳生の本棚
勝目梓の本棚/市川崑の本棚/大森一樹の本棚
森本哲郎の本棚/生島治郎の本棚/江波戸哲夫の本棚
唐沢俊一の本棚/高橋章子の本棚/中村彰彦の本棚
邱永漠の本棚/大槻ケンヂの本棚/山本益博の本棚
林家木久蔵の本棚/鈴木邦男の本棚/金子郁容の本棚
阿井景子の本棚/田村隆一の本棚/オバタカズユキの本棚