武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 5月第2週に手にした本(9〜15)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)
井上達夫著『他者への自由―公共性の哲学としてのリベラリズム』(創文社現代自由学芸叢書1999/10)*同じ著者の「共生の作法」が面白かったので手にした。現代社会が抱えている思想的脅威に対して根底から立ち向かおうとする倫理的姿勢が清々しい。前著からの10年の歩みが思考の深まりとして立ち上がる力作。
ジョン・ペインター/ピーター・アストン共著/山本文茂/坪能由紀子/橋都みどり共訳『音楽の語るもの―原点からの創造的音楽学』(音楽之友社1982/2)*きわめて原理的で基礎的な、音楽教育の実践的な理論書。音楽の素養が不足しているせいか非常に難解だったが、言っていることは非常にまともという感じを受けた、訳が生硬なせいもあるか。
聖路加国際病院QI委員会編著『医療の質を測る―聖路加国際病院の先端的試み』(インターメディカ2007/12)*病院の医療の質を数値化して公表するという、吃驚的な試み。評価項目とデータを見ていくと、総合病院としての聖路加の自信の程が見えてくる。電子カルテ化もここまでくると納得。
団鬼六著『奇譚クラブ臨時増刊号総集編<花と蛇>決定版』(暁出版1973/8)*今からほぼ40年前のSM大作「花と蛇」の原本。連載8年分の総集編800ページを越える大冊だが、濃厚な官能シーンは発禁を警戒して削除されており、今から考えると大人しい昭和レトロ調のSM小説。「花と蛇」というSM小説は時代と共に変貌を遂げた大人のファンタジー(夢物語)だった。サド侯爵の諸作と比べて心情への加虐シーンが多く日本的SMと言える。
◎時代小説の会著『時代小説百番勝負』(ちくま新書1996/4)*文字通りの時代小説100点のガイドブックである。作家76人、錚々たるメンバーの力作、名作、傑作の読みどころを簡潔に紹介している。読みそこなていた何冊かが無性に読みたくなった。既読ではあるが懐かしく、再読してみようかという気になったのもある。好きなジャンルのガイドブックは愉しい。
辰濃和男著『ぼんやりの時間』(岩波新書2010/3)*スローライフものの一冊、著者の抜群の文章力に載せられてすらすら読めて、慌ただしくない時間の大切さが、豊富な引用を通して自然な感じで伝わってくる。80歳を過ぎた著者の透明感のあるゆったりした文体が素晴らしい。
◎チェン・ニエン著/篠原成子、吉本晋一郎訳『上海の長い夜(上) 』(朝日文庫1997/11)*しなやかで強靱な精神力を持つ女性による文革体験記、権力による理不尽な迫害と如何に戦うか、参考になる。強い女性による抵抗の姿には、男にはない凛々しさがあり感心させられる。2009年11月に死去。
上橋菜穂子著『獣の奏者―闘蛇編』(講談社2006/11)*気になっていたこのファンタジーが105円コーナーにあったので入手、苦手なファンタジーだが、主人公の少女エリンが凛々しく愛らしいのが気に入った。モモとハイジとアンとナウシカを全部思い浮かべた。良い少女を主人公にした物語は必ず成功する。エリンの成長物語、真っ当な教養小説になっている。