武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 5月第4週に手にした本(23〜29)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)
有元利夫著『有元利夫(画集)』(日経ポケット・ギャラリー1991/12)*この人の絵からは、古い物語りが途中で凍りついて静止したような、不思議なドラマ性を感じる。それぞれの絵に附されたコメントを読みながら眺めて行くと、音楽が聞こえてくるような気がしてくると思ったら、有田正広のCDのジャケットで何度か見かけたことがあった。
◎上橋菜穗子著『獣の奏者―4完結編』(講談社2009/8)*シリーズの完結編、物語作りの巧者であればあるほど長編の終わらせ方は難しい。福島の原発事故のことを連想しながら闘蛇と王獣の戦闘シーンを読んだ。磨き抜かれた日本語の文体が見事、異世界物語のリアルさを見事に支えていて安心して読める。挟んであった出版社の葉書の宛先が「児童図書第1出版部行」となっていたが、児童図書に分類しておくのは勿体ない。
◎宇野巧芳著『わが魂のクラシック』(青弓社2003/4)*LPのライナー・ノート傑作選という触れ込みが気になって手にした。片面20分足らずの繊細なLPによる音楽鑑賞が懐かしくなった。音楽を聴くこと自体に儀式のよう手順を必要としたあの頃、音楽に費やす物心両面のコストは今からは想像出来ないほど高かった。ワルター指揮マーラー作「大地の歌」の解説が本書の白眉、自作の対訳まで付ける大変な熱の入れように脱帽。
◎ディヴィッド・デュバル著/横山一雄訳『ピアニストとのひととき(上) 』(ムジカノーヴァ1992/9)*世界の一線で活躍する現役ピアニストへのインタビュー集、インタビューア自身がピアニストであり、そのせいかインタビューの突っ込みが実に鋭くて的確、音楽への洞察に満ちた見事な対話集であり、専門的な本なのにアメリカでベストセラーになった理由が肯ける。以前、ブレンデル氏の年間スケジュールを見て、国際的な音楽家の多忙さに吃驚したことがあるけれど、この本を読んでステージで活躍するピアニスト人生の厳しさが胸に迫った。これを読んだらピアノコンサートの聴き方がきっと変わる。
石原吉郎著『石原吉郎全集2』(花神社1980/3)*いつからだろうか、石原吉郎詩篇を読むのが辛くなり、散文の方に引かれるようになった。この巻には生前発行の3冊の評論集と、1冊の遺稿集が収録されている。通読できる分量ではないので、折に触れて拾い読みして気持ちを奮い立たせている。とりわけ第1評論集<日常への強制>の中の「1956年から〜年までのノートから」の短文が凄い、何度読んでも気持ちが引き締まる。