武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 2月第2週に手にした本(11〜17)

*季節が変わり始めたせいか天候が安定しないので、遠くに出かける気が起きない。夜明けがだんだん早くなってきた。目覚めた時、窓の外が明るくなりかけているのは気分がいい。

伊藤俊治著『裸体の森へ/感情のイコノグラフィー』(ちくま文庫1988/12)*極めて真面目なヌード写真文化論、猥雑さを取り扱う文体が、限りなく猥雑さから遠いために、自在に論じる力を得ているのかもしれない。収録されている画像の猥雑感が限りなく相対化されてしまう不思議、雑誌や写真集ではもっと刺激的だった。

◎M・K・シャルマ著/山田和著訳『喪失の国、日本』(文春文庫2004/1)*サブタイトルの「インド・エリートビジネスマンの日本体験記」に惹かれて本書を手にした。インドを旅した時のカルチャーショックを思い出すと、逆にインド人だって日本に来ればカルチャーショックを受けるのではと思ったからだ。読み始めてしばらくは期待通りの内容だったが、読み進むうちに、この本は訳者によって仮構されたフィクションではないかという気がしてきた。描かれている日本人に余りにも生活感がない、体験記ならもう少し生々しい。良い着眼なので、在日インド人への聞き書き集でいいから、再度このテーマに挑戦してみてほしい。

◎ユクスキュル/クリサート著/日高敏隆/羽田節子訳『生物から見た世−見えない世界の絵本』(岩波文庫2005/6)*訳者あとがきにあるように「動物には世界がどう見えているかではなくて、彼らが世界をどう見ているか」について、具体的な例を次々と示しながら、生き物の空間認識や時間認識について分かりやすく書かれた新しい生物学の啓蒙書。興味深い概念が次々と出てきて、個人的には動物を見る目が更新されたような発見があった。生物学の実存主義ではないかという感想がわいた。

鹿島茂著『レ・ミゼラブル/百六景』(文春ウェブ文庫Kindl版)*106点の木口版画とともに長大で複雑なレ・ミゼラブルの世界が、ストーリーだけでなくその背景までが丁寧に解説されており、良心的の手引書。Kindl版では版画の画像が大きくならなくて残念だった。文庫より単行本で読みたい。