武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 3月第1週に手にした本(4〜10)

春の嵐が武蔵野に吹き荒れると、関東ローム層地表の細かな土壌が巻き上げられて、土埃混じりの砂嵐となる。砂漠地帯の砂嵐と、見た目はそっくりである。口の悪い仲間内では、<四種混合>と呼び、笑い話にして受け流すことにしている。大陸からの黄砂、PM2.5ローム層の土煙、そしてスギ花粉、複合しているので、「相当からだに悪そうだね」とブラックに笑い合うしかない。外出から戻ると、洗顔とウガイは欠かせない。立て付けが悪い家では、テーブルに降り積もった土に字が書けるほど(笑)。紛れているプラスアルファの汚染物質がこわいかもしれない。

筒井康隆著『銀齢の果て』(新潮社2006/1)*超高齢社会のバトル・ロワイヤル筒井康隆にしか書けないスプラッタ小説。40人近い高齢の登場人物を操る描写の技術を愉しむ本。異才の作家、筒井康隆らしさが戻ってきた。人に薦める際には、相手を選んだほうがいいかも知れない。身近にいる似たような人を思い浮かべながら読むと苦い笑いがこみ上げる。

◎パトリック・ルイス著/長田弘訳/ロベルト・インノチェンティ絵『百年の家』(講談社2010/3)*自然の中に鎮座した古い石造りの家を舞台装置にして、その家の周りで起きた100年の出来事を克明な細密画によって描き出した力作絵本。季節の変化、時代の変化、風俗や社会習慣の変化などなど、一軒の家を軸にした人の世の定点観測劇とでも呼べばいいか。圧倒的な情報量なので何度でも繰り返し眺めて愉しめる。

吉行淳之介編『男友だち女友だち/楽しみと冒険(2) 』(文藝春秋1979/5)*随筆とエッセイのアンソロジー楽しみと冒険>シリーズの2巻目、筆達者な筆者たちの交遊と友情と人間観察ついてのエッセイと随筆のアンソロジー。平凡な筆では読むに耐えない駄文になりがちなテーマなので、捻りのきいた文章が多く並ぶ。人の見方、人の語り方の多様なサンプル集。

平野啓一郎著『葬送第一部』(新潮社2002/8)*廉価本コーナーに上下セットで並んでいたので迷わず手にした。ショパンドラクロアを主な視点人物に据えた、克明な時代心理小説。19世紀の花の都パリを舞台にして描き出された絢爛たる音楽と美術と愛憎の心理劇、渾身の力作。