武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『岡崎大五の海外旅行添乗員シリーズ』岡崎大五著(角川文庫)

toumeioj32006-01-22

 何気なく手に取った本が大当たりで面白かったりするとスゴク得した気分になる。本書は、正月明けの休みの日、空いた時間をうっちゃるべくbookoffをぶらついていて100円コーナーでダメモトのつもりで買ったもの。確率は高くないが、旅行にまつわる本の中に時折とても面白い本が見つかるのでチト期待して買ったらやっぱり当たりだった。
 前にも書いたが私はパッケージツアーが大好き、個人旅行も嫌いではないが、パッケージツアーには個人旅行では決して味わえない予期し得ない人間ドラマと格安感がある。ツアーに参加する各メンバーの個性とリードする添乗員のやり取り、思わぬ人間ドラマが楽しくて、7日間は7日間なりの、15日間なら15日間なりの、起承転結のあるお芝居を見るようで、しばらくするとまた行きたくなってくる。実物の風景の展開と人間喜劇が同時に、しかもナマで味わえるなんて、こんな楽しいこと他にはない。
 この国の海外への年間旅行者数を調べると、90年に1000万人を越え、95年には1500万人を突破、イラク戦争とサーズの影響で史上最大の落ち込みの03年でも1300万人超、この中のどれだけがパッケージツアーか分からないが、無数のパッケージツアーが繁盛しているのは間違いない。これらのパッケージツアーを企画主催できる第1種旅行業者が800余り、一体どれだけの添乗員が日夜パッケージツアーのお供をして世界を駆け巡っているのだろうか。
 これだけの数があれば、面白いツアーがあり、面白い添乗員もきっといるはず。優れた文才の個性的な添乗員だっていないはずがないと思っていた。そして、たまたま見つけたのが、本書の岡崎大五さん。最初に出版された「添乗員騒動記」だけはやや文章が硬く、お話の運び方も初々しくてチトぎくしゃくするが、3冊目の「添乗員狂騒曲」ともなると、起承転結鮮やかで笑わせてしんみりさせて、十分に楽しませてくれる。
 期待していいのは、①かなりドタバタするがプット吹き出すお笑いの精神に満ちていること、これがあるからつい先を読まされてしまう、②添乗員らしく旅先の観光ポイントを簡潔にレクチャーしてくれて、行って見たい気持ちにさせたり、行った所なら思い出す手がかりにしてくれたりする、③人間観察がしっかりしていて参加者の人間ドラマをロードムービー風にうまくつなげてくれる、④少しだが旅行業者の内幕を開示してくれてツアーの仕組みがわかったりすることなどなど、読んで得るものが少なくない。しかし、何よりもいいのは面白いこと。私も岡崎さんのツアーに参加してみたいという気になったほど。現在までのところ角川文庫に入っているものを列記してみよう。

添乗員疾風録
添乗員撃沈記
添乗員世界遺産旅がらす
添乗員狂騒曲
添乗員奮戦記
添乗員騒動記

 全部買って読んでみる価値があるかどうか、そこまでは保障しないが、海外旅行やパッケージツアーが嫌いでない人ならきっと楽しめるはずです。