武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『壊れる日本人 ケータイ・ネット依存症への告別』柳田邦男著(発行新潮社)

toumeioj32006-01-21

 暮れに携帯電話の機種を変更して、感じたことがあったので<ケータイ・ネット依存症>がキーワードになっているらしい本書を手に取ってみた。柳田邦男さんの本格的なノンフィクションにはこれまで教えられることが多かったので、本書でケータイについてどんな取材をなさっているのか興味があった。内容を概観するには目次を眺めるのが一番なので、まず目次を引用する。

見えざる手が人間を壊す時代
広がるケータイ・ネット依存症
「だが、しかし」と考える視点
「ちょっとだけ非効率」の社会文化論
ジレンマの壁を融かすには
「あいまい文化」を蘇生させよう
言葉の危機の三重構造
この国を救う「あいまい文化」
人の傷みを思わない子の育て方
ノーケータイ、ノーテレビデーを
異常が「普通」の時代
「向き合う姿勢」を取り戻すには

 ご覧になって分かるように本書で、ケータイ・ネットについて言及している章は、それほど多くはない。また、携帯電話について柳田さん特有の広範囲で奥行きのある徹底的な取材をなさったうえでの本格的なノンフィクションでもない。十分な取材をしないで持論を展開するするとどうなるか、柳田邦男さんほどの人でもかなり危い論理展開に陥らざるを得ないということが分かる点に、一読の値打ちがある本かもしれない。
 新しい技術が社会的な広がりを獲得すると、必ずや負の側面を社会が負担することになるというのは、たぶん本当のことだろう。その意味では、ケータイやネットの負の側面に着目されたのは、ある意味では慧眼だったとさえ思う。しかし、この本では、ケータイやネットに関わる事象を、十分に取材なさっていらっしゃらないような印象を受けた。ご自分がどの程度利用なさっているか分からないので何ともいえないが、読んでいて歯痒い思いをすることが多かった。ケータイ・ネットについては、改めてしっかり取材をなさった著作を期待したい。
 私は優れた作家や芸術家が、専門の分野を離れて文明批評的な仕事をなさるのにほとんど関心をもたないが、本書もそんなあえて手に取るまでもない1冊だったような気がした。したがって、この本は、どなたであってもお薦めしたりはしないつもり。