武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『6週間のダンスレッスン』草笛光子と今村ねずみの二人芝居の印象記(所沢文化センター・ミューズ・マーキーホール公演)

toumeioj32006-03-01

 72歳になる末期ガンの老未亡人とブロードウエイ崩れのゲイのダンス教師が、二人だけで6回のダンスレッスンに取り組み、反発と和解を繰り返しながら、ダンスのレッスンを積み重ねるうちに、年齢や生き方が全くと言っていいほど違う二人が、互いを理解し尊重しあうまでに心を通わせてゆくという大人の童話。原作はリチャード・アルフィエリというから多分アメリカ人だろう、機知に富みよくできた脚本、生活習慣の違いのせいか、落語や漫才を聞い安心して笑えるほどには笑えないが、きれのいい台詞が随所で光った。
 6回プラス1回のダンスシーンが楽しかった。反発と和解と相互理解が繰り返され、ダンスシーンと交互に繰り返されるで劇中に楽しく引き込まれた。今村ねずみさんの軽快な動き台詞回しが若さを表現、草笛光子さんの年齢を超越したような優雅な動きと美しさは見るものをドキリとさせる。草笛さんの年齢が未亡人の実年齢に近いせいか、草笛さんのダンスのステップに期せずして年齢が滲んでいた。二人の年齢佐賀ダンスシーンの体のきれの差となって浮かび上がり目を引いた。二人のダンスを通して、ダンスが本来もっている社会的な儀式性のようなものが浮かび上がってきて、新しい発見をしたような気になった。
 お芝居の中心テーマになっているのは、老齢期の人の有り様とその心の問題、ドラマらしい話がすべて思い出として過去形で語られるところが老齢期の老齢期たる所以だが、いささか典型的過ぎるのが気になった。現在進行形の話として出てくるのは、階下の喧嘩友達の突然死と草笛光子演じるリリーのリンパ腺のガン再発の告知、どのように料理しても暗くなるしかないストーリーを、ダンスシーンでつなぐ事によって明るく見せたところが最大の収穫、ダンス文化が社会の深部にまで浸透しているアメリカ生まれの劇だからこそ上手くまとまったのではないか。楽しませてもらい、いろいろ老齢期について考えさせられたので、5000円入場料は高くなかった。