武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『進化論の挑戦』 佐倉 統著(角川選書)

toumeioj32007-03-19

 グールドの進化論エッセイが面白かったので、興味にかられて本書を手に取った。読みやすく明快な文体で、論旨の展開はなかなか刺激的、わくわくしながら楽しんで読める。内容は、進化論の歴史から、フェミニズムや環境問題、教育問題へと幅広い話題を提供する。いずれも進化論の適用を切り口に、鋭い問題提起を連発。著者の旺盛な知的好奇心が、読むものを上手に挑発してくれる。軽い科学読み物としてお勧め。
 内容の概略を示す意味で、目次を引用する。

第1章 進化と進化論の歴史
第2章 国家と社会の名のもとに―優生学と社会ダーウィニズム
第3章 社会行動の影に遺伝子あり
第4章 人はなぜ道徳的に振る舞うのか、また、なぜそうでなければならないのか?
第5章 ダーウィンフェミニズム
第6章 ケーニヒスベルクの三〇〇年―進化論と認識論
第7章 人の心の歴史
第8章 さらばガイア、こんにちはバイオフィリア

 本書を読みながら、出発点のダーウィンの著作を探してみて驚いた。これほどよく知られた人なのに日本語に翻訳された全集がないという事実。戦前に2回ほど全集発行の企画があったが、いずれも発刊途中で挫折している。
 戦後に一部の著作集は出たものの、全集本の企画が1回も成功していない。何と不思議なことだろう。この国の出版文化に馴染まない何らかの理由でもあるのかしら。