武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 ミートホープの食肉偽装事件に思うこと

 連日、信じがたいような「ミートホープ」の食肉偽装事件の報道が続いているが、今朝の朝日新聞の朝刊の社会面の記事に触発されて、以前から気がかりでならなかったことを思い出した。
 今回の記事は、苫小牧保健所の立ち入り検査が、事前に通知されていたために、会社側が偽装を隠蔽していたと言うもの。監督権限をもつ行政機関が、対象とする組織を点検するには、2つのケースが考えられる。事業が適正に運営されているかどうかチェックする通常の検査、もう一つは、何らかの不適切な違法行為がないかどうか調べる臨時の検査。
 通常の検査であれば、スケジュールが組まれ、システム全体の正常な運行を保障する意味で、事前通告は双方の信頼関係を守る必要からも、当然になされるべきだと思う。
 しかし、従業員の内部告発や消費者からの苦情などがあって実施する臨時の検査は、抜き打ちでなければ意味がないのは、誰でも分かること。しかしながら、この国の多くの行政機関においては、業者との信頼関係維持を重視するあまりか、温情ためか、事前通告ありの立ち入り検査が多すぎる気がしていた。私が見聞きした狭い範囲でも、事前に通告があったために、日常的に行われていた杜撰な操業の実態が、撤去隠蔽されてしまい、何も問題がないばかりか、むしろ優良な状態であるとの逆の評価を与えてしまったケースが何件もある。
 この国の可なりの事業は、利益獲得を優先するあまり倫理性を後回しにすることがこくあるあると聞いている。庶民には、不正を摘発する力も権限もないので、監督権限をもっている行政に期待するのだが、期待はずれの何と多いこと、今回の事件で「保健所よ、お前もか」という思いがした。
 企業の機密保持も壁は厚い。庶民からみると、高く頑丈な塀の中で、目の鋭いガードマンに警備させながら、一体何をやっているのか、さっぱり分からないことだらけ。少なくとも半径1km以内に居住する住民は、敷地内を自由に見学できるような制度がほしい。
 年金記録紛失問題の例でも分かるように、どんな組織であれ仕事を任せっぱなしにしておくと、必ずや腐敗は堆積して、とんでもないことになる。どんな仕事も人間がやることに失敗はつき物、失敗を修正しながら業績を積み上げてゆくのが仕事をするということのはず。隠したり、なかったことにしたりして、ごまかしを続けると、やがては組織そのものの基盤がひび割れてしまう。
 監督官庁の検査機能は、自分たちの保身のためのものではなく、庶民の命や健康のためにあるもの、従来からの慣行にとらわれずに、やるべきことをちゃんとやり遂げてもらいたいと切に願う。通常の定期点検の徹底、臨時の抜き打ち検査の厳正化、これしかあるまい。
 本件のasahiの記事を引用しておこう。内容がリアルなので全文を引用する。

保健所、ミートホープへ検査を事前通知 偽装食材を撤去 (2007年07月03日)
 食品加工卸会社ミートホープ(北海道苫小牧市)による偽装牛ミンチ問題で、北海道庁の苫小牧保健所が問題発覚前に同社に立ち入り検査をした際、事前に日程を通知していたため、同社が工場内を片づけ、保健所の検査をかいくぐっていたことがわかった。同社はミンチに豚の肉や心臓、家畜の血、パン、化学調味料などを混入していたが、通告を受けて撤去していたという。
 同社元幹部は「事前通告は『うまくやれ』と言われているようなものだ。検査はザルだった」と証言する。
 苫小牧保健所によると、「ミンチに変なものが混ぜられている」などの内部告発が何度かあり、06年は2月、11月、12月(2回)に立ち入り検査した。このうち抜き打ちは1回だけで、残りの3回は事前に日程を知らせていたことを道は認めている。
 ミートホープの元幹部によると、少なくとも約7年前からは、大半の日程が通知されていたという。
 ミートホープの工場内は、日常的に牛肉以外の様々な混入物が積まれ、「間違っても外の人には見せられない」(元幹部)状態だったが、通告のたびに片づけ、ミンチ製造機も清掃していた。「検査前日は、いつも大忙しだった」という。
 元幹部によると、検査官を迎えた時には「先ほどミンチの製造が終わり、機械を清掃したところだ。原料も残っていない」などと説明。同社には工場が二つあるが、一方が終了すると、電話で「今終わったから、今度はそっちだ」などと連絡を入れていたという。
 昨年の立ち入り検査では、検査官が偶然、豚の心臓を混入しているのを発見したことがあったが、従業員が「客に依頼された」とうその説明をすると、それ以上は質問しなかったという。道保健福祉部は「食品の原料にするのなら法令上問題ないと判断してしまった」と釈明している。
 検査では、食品添加物が基準値を超えていることや、工場増築の届けが出ていなかったことなどが確認されたが、食肉偽装はばれなかった。
 道は「検査は抜き打ちが原則と考えている。しかし、責任者の面談が必要な場合もあり、実際には事前に通告することはある」としている。
 ミートホープ田中稔社長は「検査が来ることは前もってはわからない」とし、道が認めている事前通告の事実自体を否定している。

 <記者と元幹部>の言っていることと、<道と社長>が言っていることの見事な食い違い、この構図はこの国では、見慣れた光景のような気がする。営利優先と保身優先が結託した姿は何とも悲しい。