武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『おんがくぐーん』音楽の学校2・音楽の劇場2(発行ほるぷ出版)

 A面、表面の音楽の学校2には、別役実さんの「空のおとし穴」というシュールな感じがする幻想的な物語が収録されている。

四人の盲(めくら)が登場人物、中村伸郎さんのナレーションで物語が進行する。音を頼りにしている四人を使いでいる綱が切れてしまい、物語の途中からヴァイオリンの音を頼りに行動するようになる四人は、砂漠を目指して旅を続ける。あらすじを辿っても意味がないほど、話の筋は意外性に富んでおり、穴に落ちることを何よりも恐れている四人は、何故か、ある街の住人すべてが空の穴にすいこまれる事件を回避したり、生き延びることが不可能な砂漠を生き延びたりと、奇妙な味わいのお話である。間奏のようにヴァイオリンの無伴奏演奏があったりして、音の効果は十分に楽しい。
 子どもが喜んでくれるかどうか分からないが、大人はけっこう楽しめそう。ラジオドラマとして放送されたとしてもおかしくない。

 [音楽の学校2]
・空のおとし穴
 ヴァイオリンの音
 作=別役実
 音楽=池辺晋一郎
 語り手=中村伸郎
 ロロ=伊川東吾
 トト=斉藤春彦
 ググ=福原一臣
 キキ=小篠一成
 ヴァイオリン=植木三郎

 B面、こちらの方は、今でも時々上演される機会のある、一幕もののシンプルな和風オペラ。じっさとばっさが大事にしているうりこひめを、さらってゆこうとするとのさんをあまんじゃくが追い払い助けるというあらすじ。

 昔話か民話のような素朴な味わいがあり、歌のある懐かしい感じのする物語として楽しめる。この作品も、はたして子どもが聞いて喜ぶかどうか分からないが、大人ならけっこう楽しめるのではないか。今なら、あまんじゃくと、とのさんと、うりこひめのやりとりを、さらに展開したことだろうが、わりとあっさりしているところが時代を感じさせる。

[音楽の劇場2林光作品集]
・オペラあまんじゃくとうりこひめ
 作曲=1958年
 作=若林一郎
 出演 うりこひめ=大川隆子
    あまんじゃく=勝本章子
    じっさ=築地利三郎
    ばっさ=荘智世恵
    とのさん=吉野靖夫
    けらい=田口幸興輔
 朗読=溝口舜亮
 演奏=「音楽の劇場」交響楽団
 指揮=外山雄三