武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『おんがくぐーん おんがくのほん』音楽の学校1・音楽の劇場1(発行ほるぷ出版)

 LPレコードの歴史を調べてみると、1951年3月に「日本コロムビアが日本初のLPを輸入発売、長時間レコードと呼ばれた。」とある。そして、1986年に「CDがLPの国内生産枚数を追越」した。 一般に普及したのは50年代の半ばから80年代の半ばまでのほぼ30年間だった。
 30年は長い、この期間中に成長期、充実期、爛熟期、衰退期があったことだろう。LPレコードにまつわる個別技術史文化史をたどるときっと面白いと思う。便利なCDが登場してみるみる衰退してしまったので、LP時代とともに、CDに変換されることなく失われてしまう音源も多いのではないか。私個人の記憶でも、埋もれてしまっているものがかなりある。
 先日、自宅の古いLPを整理していて、懐かしいものを見つけた。ネットで検索してみたが、内容の画期的な素晴らしさに比べて、データがほとんど見当たらなかったので紹介したい。埋もれた過去から掘り出してきた品々なので気取って「失われた時を求めて」シリーズと題してみる。
 LP華やかなりし1974年、ほるぷ出版から、「ほるぷ教育体系・音楽・小学生編・おんがくぐーん! おんがくのほん」という豪華なLPセットが発売された。11枚組のLPに2冊の本が付いた、ずっしりと重い高額商品だった。書店でもレコード屋でも見かけなかった。友人に面白いよ紹介されて、直接ほるぷ出版へ電話して送ってもらったことをおぼえている。
 小学生を対象にした企画らしいが、内容が面白すぎて、当時の小学生にどうやって提示したらいいか、困った。十分に大人が楽しめる内容だったので、もっぱら大人たちが楽しんだのではないかという気がする。LP10枚と附録が1枚の計11枚セット、A面が音楽の学校、B面が音楽の劇場となっていて、当時のこの国の一流のスタッフが製作に参加していたが、凄い顔ぶれだった。

 まずはA面に入っている音楽の学校1、「ちょうちょとチンドン屋」と題する音響効果の付いた物語。ナレーターが東山千栄子さん、チンドン屋伊東四郎さん、ちょうちょの後について行くチンドン屋の行く先に盗賊などいろいろな人々が現れ、打楽器の軽妙な効果音とともに物語が進んでゆく。時代のせいか、今聞くと物語を流れる時間はおそろしく長閑、足で歩いてゆく感じが最後まで崩れない。いろんな打楽器が次々と打ち鳴らされ飽きない。最後に、爽やかな感じのするJYZZ風な演奏が流れてこの面は終わる。

[音楽の学校1]
◎ちょうちょとチンドン屋
 たたく楽器の音
 作=山本清多
 音楽=富樫雅彦
 語り手=東山千栄子
 チンドン屋伊東四郎
 ドラムス=富樫雅彦
 パーカッション=ジョー水木
 フルート=宮沢昭
 ピアノ=渋谷毅
 ベース=原田政長


 B面の音楽の劇場1林光作品集は、林光さんの交響曲、4楽章からなる清々しい曲、全体に弦が奏でる曲の流れが美しく、いい曲だなと思わず耳を預けてしまう。時間にして20数分の曲だと思うが、起伏や変奏が気持ちよく按配されていて、しっくりする。聴いている耳が緊張しないから不思議、好きになる子が多いのではないか。大人の方が喜ぶかもしれない。(ジャケットは粟津潔氏の曲をイメージ化したイラスト、聴きながら眺めていると、実に良くできていると感心する)

[音楽の劇場1林光作品集]
交響曲 ト調
 第1楽章=モデラー
 第2楽章=スケルツォ---はやく
 第3楽章=間奏曲---ゆっくり
 第4楽章=ロンド---元気よく
 作曲=1953年
 演奏=「音楽の劇場」交響楽団
 指揮=外山雄三

 「交響曲ト調」の方は、探せば聴く機会もあると思うが、「ちょうちょとチンドン屋」は音源そのものが希少なような気がする。CD作品としてリバイバルしてくれないだろうか。だが、ほるぷ出版も今はない。