武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『動物の権利』 P・シンガー編 戸田清訳(発行技術と人間)

 先日、ピーター・シンガーの「動物の権利」という啓蒙的な小冊子を読み、動物の倫理の世界的な運動に関心がわいたので、図書館で同じピーター・シンガーが編んだ「動物の権利」という1986年発行のこの本を見つけてきた。元々の題名は、「In DeFence Animals」≪動物の擁護≫。

 内容は、3部構成。第一部が運動の理念、総論と言うか、イデオロギーと言うか、理論的な論文で構成されている。第二部は、問題の各局面の展望、動物実験問題、近代的工場制畜産問題、動物園問題、種の絶滅問題。各分野での問題意識が先鋭に提起される。第三部は、各方面での運動論というよりも活動家達からの運動の現場からの報告。
 以前にはなかった1970年代ごろに広まった新しい次元に立ったこの種の運動の広がりを、10年が経過した1985年にまとめたもの。活動し始めてしばらく時間が経過しているので運動が蓄積して脂が乗ってきており、運動の歪みもいまだ顕在化していない段階の、発展しつつある充実期の作品。多数の執筆者が集まっているので通読しにくい面もある本だが、当時の運動を資料的に振り返るのには打ってつけ。動物の倫理を語る前に、必ず目を通しておきたい一冊。どれも比較的短い文章だが、力のこもった力作が多い、けっこう読んでいて疲れた。
 運動の深まりと裾野の広がりは、想像以上、およそ思いつく限りの動物問題が、すでに、極めて真剣に検討されていたと言う事実に感銘を受けた。現在は絶版のようだが、おしい本。
 資料的な意味もあるので、目次を全部引用しておこう。

プロローグ
倫理学と新しい動物解放運動・・・・・・ピーター・シンガー

第一部 理念

動物の権利・・・・・・トム・リーガン
動物の苦しみの科学的評価・・・・・・マリアン・スタンプ・ドーキンス
動物観の再検討・・・・・・スティーブン・R・L・クラーク
パースンとノンパースン・・・・・・メアリ・ミッドグレイ
食用家畜と菜食主義・・・・・・ハリエット・シュウライファー

第二部 動物問題の諸相

実験動物とスピーシズム・・・・・・リチャード・D・ライダー
すばらしい新農場・・・・・・ジム・メイソン
動物園反対論・・・・・・デール・ジャミーソン
動物の絶滅と人類の生存基盤・・・・・・ルイス・リージェンスタイン

第三部 動物解放運動の戦略

実験科学者との法廷闘争・・・・・・アレックス・パチェコ、アンナ・フランチオーネ
壱岐のイルカ騒動・・・・・・デクスター・L・ケイト
なぜ動物実験をやめたか・・・・・・ドナルド・J・バーンズ
政治と動物の権利・・・・・・クライブ・ホーランド
アニマルライト活動家たちの声・・・・・・フィリップ・ウインデット
成果をあげた動物実験反対闘争・・・・・・ヘンリー・スピラ

エピローグ・・・・・・ピーター・シンガー