武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『ペットと社会 (ヒトと動物の関係学 第3巻)』 森裕司著, 奥野卓司著 (発行岩波書店2008/12)


 この本はペットの可愛らしさや、ペット共に暮らす生活の楽しさなど、ペットブームを当て込むようなセールススピリットとは全く無縁の、現状におけるこの国のペットが抱える様々な問題を客観的に把握、冷静に解決の方向性を手探りするという、画期的な内容の本である。巷に氾濫する躾の良くないペットをご覧になり、ブームに少しでも疑問をお持ちになった方には、家畜や動物関連の錚々たる研究者たちの知見を通して、日頃のもやもやした気持ちをスッキリと整理する参考書としてお勧めしたい。
 本書の内容については、序論のなかに周到な要約が示されているので、それを元に概要を紹介してみよう。第1章の<ペットの歴史学>では、ペットが人間の暮らしに入り込んできた経過を、西欧の中世と日本の近世に焦点を当てて分析、我が国のペットの現状が取り上げられている。とりわけ4本目の「発達心理学から見た飼い主と犬の関係」を読み、この国の社会が抱え込んでいる抑圧性が、いかに歪んだ形でペット飼育という行為に反映しているか示され、暗然となった。
 第2章<変容するペット>に進むと、ペットをなかば生活の伴侶として抱え込んだこの国の現状と、深刻化するその問題群に目を瞠らされた。ペットを巡る社会現象の報告として、読み応えのあるドキュメントとなっている。日頃からペットとは無縁な生活をしているので、あらためてペット問題の深刻さに気付かされ非常に興味深かった。
 第3章<可能性としてのペット>、ペットをめぐる一種の未来学だ。ペットへの期待の高さに感心すると共に、個人的にはペットにだけはなりたくないなと言う感慨を持たざるを得なかった。人間社会の大変さが、そっくりペット達のささやかな双肩にかぶさっているようで同情を禁じ得なかった。
 目次を引用しておこう。

序論 人間とペットの関係の未来へ
第1章 ペットの歴史学
・なぜイヌとヒトは近い関係になったのか
・中世ヨーロッパとペット
・花のお江戸の犬と鷹
発達心理学から見た飼い主と犬の関係―人の身勝手な要求に翻弄される犬
第2章 変容するペット
・動物は自然―ペットからコンパニオンアニマルへ
少子高齢化社会のなかのペット―ペットとネオ・ファミリズム
・破綻する生活―ペットの問題行動と飼い主
・ペットロス―共に暮らした伴侶動物を失って
第3章 可能性としてのペット―アニマル・セラピー
・医療と動物の関わり―アニマル・セラピー
・動物による子供の心の育成―動物介在教育
・広がる可能性―介護・探査・救援

 ペットについて真摯に考えを深めたり広めたりしたい方には、真っ先にお勧めしたい。ありそうで、この種の本は、これまでなかった。

(追記)国立図書館の<リサーチ・ナビ>という便利なサイトを利用して<ペット産業>の概要を調べてみた。 (右の画像がリサーチ・ナビの扉、実に使いやすいレイアウト)
http://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/theme-honbun-102201.php
内容は、ペット産業に定義と現状および周辺環境だが、詳しいことを知りたい方は、上のURLから関心の対象を広げてもらいたい。一大産業分野を形成していることが、具体的にお分かりいただけます。以下に概要の説明のみを引用しておこう。

1.ペット産業とは
ペット産業は多様な業種・業態を含んでいますが、ここでは日本標準産業分類6096番「ペット・ペット用品小売業」(主として犬、猫、小鳥、熱帯魚などのペット及びペットフード、ペット用品を小売する事業所をいう)を中心に、1061番の「配合飼料製造業」、1062番の「単体飼料製造業」、8041番の「獣医業」等を取り上げています。主にペットショップ、愛がん用動物小売業、観賞用魚小売業、ペットフード小売業等を取り上げていますが、産業の観点からペットフード・ペット用品関連工業、動物病院、獣医等に関する情報も紹介しています。

2.ペット産業の現況
平成19年度のペット産業の市場規模は、『ペットビジネスハンドブック』(産経新聞メディックス 年刊 【Z71-K688】)の2009年版によれば、ペットフードが4,451億円、ペット用品が1,763億円、生体・関連サービス(病院・ペットホテル・トリマー等を含む)が6,267億円となっており、合計で1兆1,730億円に上ります。市場規模の前年比はペットフードが109.7%、ペット用品が103.7%、生態・関連サービスが105%となっています。
また、商業統計によると、平成19年度のペット・ペット用品小売業の商店数は5,257店、従業者数は27,263人となっています。その他、平成17年度の動物診療施設の軒数は6,680軒、トリミング・グルーミング施設の数は8,046ヶ所、ペットホテルの数は4,857(『ペットデータ年鑑』(野生社 不定期刊 【Z41-5992】)2006年版参照)となっています。

3.ペット産業を取り巻く環境
退職期に入った団塊の世代やペットに癒しを求める単身者、中高年層を中心に、安定した需要は続くと見られていますが、不景気のためペットフード分野でも安価な競合品ニーズが高じ、品質重視派との二極化が進むと見られています。業界内では競合が厳しい模様ですが、需要拡大している衛生用品・シニア犬猫向けの商品拡充に活路が見出せるとの見方もあるようです。
なお、「犬猫飼育率全国調査」によれば、平成20年の犬の飼育頭数は1,310万1千頭、猫の飼育頭数は1,089万頭となっており、犬・猫とも飼育頭数は平成19年に比べて増加しています。

最近の動向としては、『日経産業新聞』(日本経済新聞社日刊【Z85-335】)2010年4月9日号でペットフードやケア用品などのペット関連市場を取り上げています。調査会社の富士経済では、2010年にペット関連市場が前年比2.6%増の4,217億円になると見込んでいるとのことです。内訳はペットフードが同 2.4%増の3,045億円、トイレ用シーツなどのケア用品が3.8%増の742億円、ペット用衣類などの生活用品は1.4%増の430億円となっています。

 このように、最近の国会図書館のウェブサイトの情報量には目を瞠るものがある、まったく素晴らしい。