武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『ネコのこころがわかる本―動物行動学の視点から』マイケル・W. フォックス (著) 奥野卓司/蘇南耀/新妻昭夫(訳) (発行朝日文庫)

 子どもの頃、何匹も猫を飼っている家庭で育ったので、いまでも猫には相当の愛着をもっている。猫と暮らしたことがあるので、猫の身勝手さというか、独特の行動パターンを周知していて、簡単に飼ってみる気になれないでいる。気立てのいいよそ様の飼い猫を撫でたり触ったりからかったりして満足している。

 その程度の関心でたまたま手にした本が、とても分かりやすく、猫という生き物に対する広く普遍的な愛情を筆者に感じたので、良書として紹介する気になった。猫だけに注目するのではなく、同じペットである犬と比較しながらの記述が多く、対照的なとらえ方で互いが浮き彫りになって、とても分かりやすいと思った。
 私が一番面白かったのは、3章と4章のわたって展開されている、猫の感覚。著者によれば猫には、九つの感覚があるという。臭覚、味覚、触覚、温覚、平衡感覚、視覚、聴覚、方向感覚、時間感覚の九感覚。感覚による外界の信号の受け取り方から、猫の存在のあり方を特徴づけるこのやり方は、さすが動物行動学者だなと思わせる。猫という存在の不思議さが、かなりの程度この方法で明かされ、納得したことも多かった。
6章の「すてきなネコに育てる法」を読んで、やはり猫にも相当の個体差があり、ペットに適さない性格の個体もあり、そんな猫は飼わないほうがいいことがはっきり分かり、参考になった。10年以上、家族の一員として共に暮らすからには、最初の個体選びがいかに大切か、よく分かる。本能というか、もって生まれた性格は、なかなか変えられるものではないので、最初の選択がいかに大事か、強調し過ぎることはない。
 7章の猫の精神病理を読み、都市化がすすみ環境が変わり、精神的に病んでしまう猫たちの話、何とも身につまされる。精神安定剤の世話になる猫が何ともいえず哀れ。飼い主の愛情が、何よりも猫の精神を安定させるという指摘、さもありなんと思った。
 内容を概観できるので、目次を紹介しよう。

  はじめに
1、飼い馴らされたのは誰か‐家畜化の歴史
2、野生のネコたち−その比較生態学
3、九つの世界−ネコの感覚生理学
4、スーパーキャットと超能力−科学の拡張領域
5、ネコ語を話そう−ネコの社会生活
6、すてきなネコに育てる法
7、ノイローゼになったネコ−ネコの精神病理学
8、ネコ派とイヌ派−人間とペットたち
  きつね博士のネコ問答

 この本を読むだけで、猫について少なくとも何事かの新たな知見と、親しみを獲得できるので、猫嫌いの人にも是非お勧めしたい。