武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 移動式携帯型別荘生活のすすめ

 定年退職して、北海道の夏を旅行していて再開したのがキャンプ生活。子育て時代に使っていた骨董品のようなテントを引っ張り出してみたが、あまりの狭さと不便さにへきへきしバーゲン品の新しいテントに買い替えた。時代の進歩に驚くやら感心するやら、新しいテントの優秀さに感激、高齢者のアウトドア心に火がついた。 
 かつて、家族4人で訪れたことのある思い出のキャンプ場や、新しいキャンプ場を泊まり歩き、新しいアウトドアライフにすっかり慣れた。それにしても、北海道のキャンプ場は素晴らしい所が多い。安くて空いていて、ロケーションも良く、清潔で使いやすい。この数年前の北海道旅行をきっかけとして、夏場はキャンプに出掛ける生活が返ってきた。
 今では、密かにお気に入りのキャンプ場も増え、のんびりと何日も一か所に留まる滞在型のキャンプが、我が家の夏の暮らしに定着した。土曜日曜は、家族サービスに忙しい現役世代にお任せして、ウィークデイの比較的すいている時に、出かけるようにしている。
 今のテントは素晴らしい。相当の雨風に見舞われても、しっかりしたフライシートと防水性能のいいグランドシートに守られて、何の不安も感じない。空調の仕掛けもよく、テント内での閉塞感もほとんど感じない。組み立ても撤収も簡単で、しかも構造的にかなりしっかりできていて、思いのほか天井も高く、大人が立っても頭が閊えない。数日間の野外生活なら、ストレスなしに生活できる機能を備えている。(画像は退職してから2代目のテント、わずかな年数の間にも、改良の跡が著しい)
 食生活の方も、レトルト食品やインスタント食品が普及していて、クーラーボックスによる生鮮食料品の保存さえしっかりやれば、システムキッチンほどではないが、ある程度の食の水準を保つことができる。日常の食生活が次第にアウトドアの食生活に似てきているせいかもしれない。フリーズドライ製品など、以前は野外活動のための技術で高価だったが、今では日用品として広く普及している。<キャンプで宴会>のパターンを抜け出せば、食事で困ることはほとんどないといっていい。
 自宅での日常生活を、そのまま野外に移動させれば、高くなった宿泊費を節約しながら、直に大地に寝ころび地球の温まり具合や冷え込みようを体感し、野生状態に少しだけ近づいたような爽快な気分を味わえる。私の場合、長年使っている折りたたみ椅子を広げて読みかけの本を読んだり、ふらふら近くを散歩したり偵察したり、実にのんびりした時間を過ごすことにしている。<移動式携帯別荘>も悪くない。
 テントの中では、モーツアルトがとても快適なことに気がついた。携帯用の電池を使う小型スピーカーを介して、CDウォークマンで再生すると、テントの狭い空間に滑らかに軽やかにとびはね転げ回るモーツアルトの旋律が、実に優雅に湧き上がっては消え、至福の時が生れて持続する。いろいろ試してみたが、テント生活には、モーツアルトがとてもよく似合います。マーラーもベートーベンもしっくりしません。
 野外生活なので、ポイントとなるのは、やはり天候、到着してテントを設営する時と、テントを畳む撤収時、この時だけは何としても晴れていてもらいたい。雨が降る降らないで、作業の手間が断然違ってくる。天気予報だけは、注意して聞き適切に判断して、晴れ間を上手にキャッチしたい。コツといえば、このお天気判断が、最大のコツになるかな。
 何度か高齢者と思われるキャンパーに出会った。お孫さんを伴った穏やかな表情のお祖父さんらしい二人連れ、我が家と似たような高齢者の二人連れ、三世代で移動してきたにちがいない大所帯、山登りのベースキャンプらしく朝早く登山靴で出かけて夕方温泉に浸かって帰ってくる元気な高齢者たち。やはり、ある程度の作業を必要とするので、見かけるのはいわゆる前期高齢者ばかりだけれど、とてもいい趣味なので多くに方々に勧めたいのだが。